52.猫山さんと小さなギャング1
マコさんからの電話が鳴ったのは、テレビを見つめたまま戸惑っていたときだった。
「タロちゃん!」
なんだか嬉しげなマコさん。
「あのビデオテープなあに?」
恥ずかしくて頭を抱える僕に、マコさんは問い詰める。
僕はあっさりと自供した。
ビデオテープと今に至るまでの経緯を。
タジマの思わせぶりな口ぶり、高まる期待、そして訪れるたそがれ。
話すごとに堪えきれず笑い出すマコさん。
いじわるだな。まるでイタズラを見つけたかのように僕をいじるのだ。
どんなビデオだと思ったのよ~。もう、タロちゃんのバカちゃん。
今度一緒に見ようね、とまで約束させられてしまった。
「それでね。取材旅行の話なんだけどね」諦めて全てを話し、僕はマコさんに相談する。
「行くべきよ」マコさんはきっぱりと言い切る。
「会長さんが後押ししてくれてるのでしょう?タロちゃんのラジオの事もきっと考えてくれるわ」
それに、とマコさんは真剣な口調で続ける。
「タロちゃんがこの前見た夢の啓示はまだ続いているのよ」
マコさんは不思議な女性だ。
彼女こそ、僕にとっての啓示そのものなのだ。と僕は感じる。
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翌日、ラジオ局に出勤した僕は局役員の叔父さんから辞令を受ける。
「ペット用品大手の”アニマル・トイズ”さんが長期のスポンサー契約を結んでくれました。N.A.エージェントも後援してくれます。
すごい事です、タロさん。あなたの人柄にみんな集まってくる」
握手を繰り返す叔父さんが本当に嬉しそうで、僕はくすぐったくなる。
うれしいことだと僕も感じていた。
望まれること、それを喜ばれること、暖かく応援されることがとても気持ちよかったのだ。
夢の啓示が関係しているにせよ、そうではなかったにせよ、僕はできることをやってみたいのだ。
「さて、タロさん」叔父さんが向き直る。
「紹介しましょう。猫山社長とタジマ会長、そして成田強君、会長の甥御さんですね」
役員室に入ってきた猫山さんは、やっぱりもじもじしていた。
ビデオ・オファーを拝見したことを伝え、握手を交わした。
猫山さんは会えて嬉しいといってくれた。僕もです、と答えるとにっこりと笑ってくれた。
「元気そうだね、タロさん。がはは」続いて入ってくる成田会長は相変わらずである。
会長の後ろから顔を覗かせる人物に僕は首をかしげる。誰かに似ている。
黒服スーツ。黒シルクハット。黒メガネ。ぱりっとアイロンのかかった白シャツ。
・・・わかった、小さなタジマだ!
「紹介がまだでしたな。こいつは甥のツヨシです。小学5年生」
会長はツヨシ君がとても可愛いのだろう、目じりがたれまくっている。
「あまり人付き合いが得意でないんだが、なぜかタジマには懐いておる。タジマもツヨシも”ブルース・ブラザーズ”が好きでな。四六時中こんな調子なんだわ」
なるほど。
よく似合っていると言うと、疑わしそうな目を向けるツヨシ君に僕は言う。
「ジョン・ベルーシはかっこいいよ。ジェイク役は彼のためにあった」
寡黙にうなずくツヨシに僕は握手を求めた。
彼は帽子を取り、丁寧に握手を返した。
「ほう」会長が目を丸くする。
「こいつは滅多に気を許さんのだがなあ。タロさん、あんたはやはり不思議な人だわ」
どこかで”GOD-MUSIC”のフレーズが聞こえたような気がした。