51.CMの反響3~冒険の入り口
タジマ事務局長から渡されたビデオ。
恥ずかしい事に、僕はてっきり”お楽しみ”ビデオだと思っていたよ。
わくわくしながら自宅マンションに駆け込み、シャワーを浴び、ビールとナッツを両手にビデオを再生した僕。
期待を高めつつ、ナッツを頬張りビールを注ぐ。
やがて画面片隅にタイムコードが刻まれ、カウントダウンが表示される。
・・・・・
画面中央に映し出されたのは・・・つるつるに禿げ上がり丸く太った中年男性が一人。
「・・・・・・・・・・」
そうとう緊張している様子である。
「・・・・・・・・・・」
ふ、震えているようだ。
「・・・・・・・・・・」
・・・長いってば。
「う゛ぇっ。・・・本日は、、、ありがとう」
いきなりお辞儀を繰り返すその様子に、僕はなんだか可哀想になってしまった。少し泣いてるし。
カメラが角度を変え、タジマ会長が顔を覗かせた。
「がははは。緊張してますなあ」会長はカメラの前でも安心するなあ。
「紹介しましょうかな、彼はペット用品大手の「アニマル・トイズ」代表取締役社長の猫山一郎さん。
まあ、ちょっとカメラが苦手みたいなんですわ。大きなレンズが目玉に見えるのですかな。がは」
なるほど。
「さっそくですからわたしが説明するとしましょう」会長がそう言うと、猫山さんは恥ずかしそうに頷いた。
「というのも社長さんはわたしと同期でしてな、"超常現象研究会"の仲間なんですな」
がっしと肩を抱かれた猫山さんは嬉しそうに頷く。
よほど会長を信頼してるんだね。
会長が猫山社長の代わりに説明した内容は次のようなものであった。
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中国地方・広島の山深くに猫のための村があると言う。
その村は"猫守村"と呼ばれていたと言う。
そこでは猫たちが人語を解し、流暢に話し、村の守り神として共に生活をしているらしい。
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「猫山さんは数年前からネコちゃんの不思議について研究しておりましてな」
肩をつかまれたまま、猫山社長が笑顔で頷く。
「社運を賭けたドキュメンタリー番組として取材旅行を申し込まれたんですわ。
どうでしょうタロさん。幻の”ネコちゃんの里”を探してはくれまいか」
会長と社長のお辞儀と共にビデオテープは終わった。
僕は無音のテレビを見つめ、ぬるくなったビールをすすった。
えっちビデオではなかったのだ。