49.CMの反響1(オファー)
タジマがスポンサー”どりんこ”社長から呼び出されたのは、CM放送が開始されて数日後のことだった。
一時間後、タジマは”どりんこ”本社の応接室にいた。
ソファの向かいには社長と秘書。
「わざわざ御来社いただき、恐縮です」
社長は汗を拭う。
「何か問題がありましたか?」タジマは聞いてみた。
「いや、逆ですっ」興奮して社長は身を乗り出した。
「あれは誰が作ったのか、紹介してくれと、問い合わせが止まらないんです」
困ったような嬉しいような、複雑な表情で社長は言う。
「もちろん、反響はいいんです。とても」
どうやら、いい反応のようだった。
社長は予想しなかった反響に対して戸惑っていたのだ。
「うちの事務局が窓口になります」タジマは言った。
「その上で、”どりんこ”様に繋がる仕事は全て御社を通すようにします。
自然を奨励する”どりんこ”。そう紹介してかまいませんか?」
社長は何度も頷いた。
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わたしはやりかけの仕事をこなしながら、タロさんを待っていた。
この時の仕事はデータ解析だった。
CMの仕事とは違い、データ解析は地味な作業である。
100万を超えるデータから、要求された事象となる情報を見つける。
エラーポイントを特定し、原因を分析する。
ただの誤入力もあれば、連携タイミングからの不具合もある。
システムそのものの潜在障害もある。
それらは一つずつ確認するしかない。
タロさんが物珍しげにオフィスへ入って来た。
「少し待っててもらえますか」タロさんに席を勧めてデスクに戻る。
特定のエラーレコードを抽出し、障害原因が特定できたところで(いつ、誰が、どの条件で)どうすべきかの対処を客先に相談する。
今回の原因は連携ミスであったことから、一部のデータ修正で対処することとなった。
修正前後のデータをコンペア(アンマッチ部分を特定した結果を確認)した上で納品することとなった。
大きな瞳でパソコンを眺めるタロさんに、待たせたことを謝った。
しかし、タロさんは見ていても楽しいと言う。
「タジマさんって何でもこなすんですねえ」
「いえいえ、出来る範囲で頑張るだけでして。それに…私に足りないのはタロさんの持つセンスですよ」
そう言われたタロさんはうれしそうに笑顔を見せる。
こういうところがタロさんの魅力だと思う。
「タロさんにいい知らせです」
わたしは本題に入る。
「先日、スポンサーの社長に呼ばれました」
タロさんが心配そうな表情になったので、良い話であるともう一度伝える。
CMの放送が始まり、予想を超えた反響があったこと。
次回製作も依頼されたこと。
そして、CMを見た企業からあるオファーが舞い込んで来たこと。
「そのオファーの内容、なんだかわかりますか?」
なんだろう、と瞳をキラキラさせてタロさんは辺りを伺う。
オファーを何かのプレゼントだと思っているのかもしれない。
だが、あながち間違いでもないのだ。
わたしがタロさんに手渡したのは、一本のビデオテープだった。
「えっちビデオ?」瞳をキラキラさせている。
オフィスの中でわたしは笑った。仕事中に笑うのは久しぶりだった。
えっちビデオも付けてあげれば良かったな。




