45.タロ17才-冬1
-1:00AM-
気がつくとダッシュボードにはガラスの破片と大量の血が飛び散っていた。
真っ暗な山間の道路には、大型トラックと僕たちの乗った車が横たわっている。
遠くで鳴いているのはフクロウだろうか。
それにしても、何故こんなにも静かなんだろう。
父さんも母さんも眠っているのだろうか。
闇はあまりにも深くて、僕はしばらく不思議な気持ちでじっとしていた。
血?
誰の血だというのだ。
僕は無意識に身体を動かす。
!!!
一瞬の後、押し寄せる激痛に悲鳴を上げた。
目がくらむ。
誰かが僕の身体をめちゃめちゃに殴りつけているのか。
「やめろ、やめてくれ」そう声をだしたつもりなのに、血の塊を吐き出してしまう。
そして僕は思い出したのだ。
その日父さんは厚生年金会館で開催されるクリスマスコンサートに、チェリストとして出演していた。
会場主催者の計らいで僕たち家族も呼ばれたのだ。
コンサートは暖かい拍手で幕を閉じ、その後で主催者側からイタリア料理店へ招待された。
経験したことのない雰囲気での食事は緊張したけれど、僕たちはとても満足したのだ。
父さんもうれしかったのだと思う。
食事の間、少しお酒を飲んでいた。(「嬉しいときには酒」父さんの口癖だ)
すっかり遅くなった帰り道、渋滞を避けて山間の峠道から抜ける事を提案したのは僕だった。
僕と母さんはバックシートで寝ていた。
月が雲間から見えていた。
うたた寝しつつ僕はクラクションがこだまするのを聞いていた。
僕たちのように抜け道を利用する車がいるのだろう。
再び僕は眠りの入り口に足を乗せる。
巨大なクラクションと対向車のライトが同時に僕たちを捕らえたのはその時だった。
そこで僕は気絶したのだと思う。
やっと正気に戻った僕は、痛みをこらえて周りに目を凝らす。
僕はバックシートから助手席に飛ばされていた。
運転席の父さんを呼ぶ。父さんは動かない。
起きてよ父さん、と叫びながら後ろの母さんを振り返る。
母さんは見えない。
バックシートには大木が窓を破って突き刺さっていた。
思わず身体を引き起こした瞬間、激痛とともに僕は再び気絶した。
意識を失う瞬間、フクロウが長く鳴いた。
ホーホーと鳴いた。