44.トラック運転手の奇跡
「なんで終わっちゃうかなあ」
ヒゲで覆われた顔をなでながら、男はつぶやいた。
トラックの運転席からは高速道路がいつまでも続いている。
深夜にもかかわらず、たくさんのトラックが列をなして走っている。
深夜の長距離運転中、彼は欠かさずタロの番組を聞いていたのだ。
イベント、見たかったなあ。
タバコに火をつけて男はつぶやいた。
-ゲンちゃん、いるかぁ?
車内に無線の音声が響く。
斉藤のじい様だ。
「おう、いるよ」
マイクを掴んで答える。
-つまらなそうじゃねえか。んあ?
「まあな。サイトーさんはどこよ。今」
じい様は福岡に向うところだそうな。
ちょうどすれ違うあたりだな。
対向車線がちょうど近づく場所に、俺たちはいるらしい。
「めずらしいな。サイトーさん。合図してみようか」
-おう。チャンスだな。
俺はトラックの電飾を光らせる。辺りはクリスマスのように輝く。
外から眺めるトラックは、さながら輝く深海魚のようだろう。
ほどなく、向かいの車線からクラゲのような電飾が輝いた。
窓を開けてこぶしを振り上げる。
じい様のこぶしも少しだけ見えた。
一瞬で終わるイベント。
俺たちのラッキーイベント。
トラッカーの神様が微笑んだ証なのだ。
-じゃあなっ。相棒!
じい様は福岡に向う。俺は東京に向う。
”DJタロ”の深夜放送。
好きだったのになあ。
しかし数日後、彼は再び窓からこぶしを振り上げる。
タロの昼番組への進出を喜んだのだ。




