40.CM製作1(夢の啓示)
放送が休みの土曜日。
マンションの自宅にはCDが散らばっていた。
いくつもの走り書きとタバコの吸殻、ビールの空き缶。
イメージは既に浮かんでいる。
それに当てはまる素材を組み合わせる事に時間が掛かる。
気分転換が必要なのだ。
だから僕はマコさんに電話をした。
「ハロー」
「タロちゃん」
マコさんは聡明な女性だ。
僕が行き詰まっていることを察知している。
「わたしはタロちゃんの力になりたいよ」
何も言わないのにわかってくれている。
「アイデアが浮かんでいるのに、表現できない。どうしたらいい?」
僕は正直に相談してみる。
彼女はしばらく沈黙する。
「眠るのよ」
簡潔に彼女は断言した。なるほど。
僕はシャワーを浴び、歯を磨いて布団に潜り込んだ。なるほど。
そして深く眠ったのだ。
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僕は夢の中で、「これは夢なんだな」と理解していた。
夢は次のような内容で進行した。
自然公園のような一画に、僕は立っている。
渓谷を模した大きな岩肌が目の前にまで迫っていた。
散歩しようと歩いていると組上げられた大きな材木の上から一羽の鷹が舞い降りてくる。
「鷹」は僕に話しかけてくる。
-私が「鷹」となる前世の生活をお前に記す。
(鷹は僕の意識に直接話しかける)
-私はとても古い時代に、奇跡を起こした人間として記憶された。「天狗」と人々は呼んだ。
-私は「火」を操り、「水」を呼び、「風」を操ったからだ。
-私はもっと高みを望んだ‥(この先は聞き取れなかった)
-私が何者かを君は知っておく必要がある。その秘密を君に委ねる。君は感じるだけで良い。
-腕を高く掲げなさい。親指をまっすぐに硬く伸ばして。
僕が鷹の指示のとおりに手をかざすと、鷹は羽ばたき、腕にしがみついてきた。
鷹としての彼の伝えるイメージが古い映画のように目の前に投影されていた。
「走馬灯」と僕は想う。
おそらくそれは「愛」そのものを伝えていたのだと僕には感じた。
「もっと腕を硬く。指に留まるから」彼は伝える。
鷹に指を強く掴まれ、指からは血がしたたる。
「それでいい。もっと高くわたしを掲げるのだ」
高く腕を掲げたところで夢は覚めた。
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目覚めた時、僕は混乱していたかもしれない。
しかし、その夢を僕は自分自身とリンクした出来事として認識していた。
僕は戸惑ったまま電話をかける。
「マコさん」
「ふあい」
マコさんは寝ぼけている。(かわいい)
「ごめんね、寝てた?」
「…タロちゃん?」
反射的に時計を見る。
真夜中だった。
「こんな時間だったんだ。ごめんね明日かけるから」
あわてて電話を切ろうとした僕に、彼女は何があったのかを聞きたがった。
優しいマコさんに甘えて、僕は「夢」の内容を伝えたのだ。
「あなたは変わりつつあるのよ」
静かに、彼女は予言する。
「タロちゃん。今は悩む時期じゃないわ。鷹はただの夢ではないと思う。あなたの中で答えが見つかる象徴だと思うわ」
マコさんの励ましが嬉しくて、僕は力強く頷いた。
電話を切ったあと、僕は仕掛かり中の仕事をしばらく見つめる。
残念なことに今夜はもう何も浮かばなかった。
”流れに沿って生きるのです”と会長は言っていたっけ。
僕は再び布団にくるまった。
眠りが僕には必要なのだ。
夢に落ちる瞬間、僕はマコさんを想った。
「おやすみ。マコさん」
夢そのものの内容は実際に筆者が見たものでした