31.田島永一(タジマ)1
わたしは冬になると故郷を想う。雪に閉ざされた極寒の故郷を。
本物の沈黙は全てを包み込む。
きしむ雪の音。しんしんと降り積もる雪の音。呼吸する雪の音。
その音は眠りの夢にまで潜り込んでくる。
あまりにも濃密に溶け込んでいるものだから、沈黙はそのまま雪に繋がっているように思えるのだ。
そんな長い沈黙の季節を我々はしのいで生きて行くのだ。
だからこそ音楽と書物は宝物であり、栄養であった。
中でも深夜のラジオは一番のエンターテイメントであった。
雪に包まれた静寂の中で聞くラジオ放送はとても心地よかったからだ。
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高校に進んだわたしは、コンピュータに興味を持った。
当時のコンピュータ環境は、アプリやWEB概念も確立されていないスタンドアロンであったが、論理的な世界観が何よりも魅力的であり、わたしの創造力を満足させるものであった。
アメリカ軍事用の通信インフラから発展したインターネット構想が日本に導入された頃、近い未来に展開されるであろう光景をわたしは確信した。アメリカでのインターネット活用事情はそのまま世界規模に統治されるだろうと。
情報伝達は活性化し、活用に成功した企業がイニシアチブを握る。
膨大な書類群が電子化され、整理され、インターネットを通して処理できるようになるのも時間の問題であろう。
そのような世界をわたしは夢見た。
「情報が未来を制する」と世界は語っていた。
潤沢な資金を投資できる企業がやがて飛びつくだろう。だったらわたしは都会の企業に賭けてみよう。
長い長い隔絶された少年時代。わたしが都会へ憧れたのは自然な流れだった。