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タロと今夜も眠らない番組  作者: シュリンケル
第一章
28/123

28.マコ転職4(2000年.春)

 朝の日差しがわたしの部屋に差し込む頃、鳥たちがさえずる声で目が覚める。


キッチンから父の鼻歌が聞こえる。

なんと「我が心のジョージア」を聞きながらハミングしている。


シャッシャッと米を研ぐ音が心地よくて、わたしはまた眠くなる。


お味噌汁の香り。卵が焼ける音。ベーコンも焼いている匂いがする。

お茶を入れなくちゃ。

なんだか幸せな気持ちになって布団から飛び起きた。


「よ、よく寝れたか」

黄色いエプロン姿の父に親指を立てて答える。

「生まれ変わったみたいよ。お茶、いれるね」



「き、今日から出社か」

「そうよ」

「そうか。か、か、会長さんとタジマさんに、よ、よろしく伝えてくれ」

「わかったわ。ありがと」


短くてぶっきらぼうだけど、父は応援してくれているようだ。


事務局まで送ると父は言ってくれたけれど、それは断った。

職場までは6駅だし、最初が肝心なのだ。何事も。


駅まで歩くうちに、同じような通勤の人々が増えて行く。

東京では気づかなかったが、歩く速度が違うんだね。

なんとなくのんびりと歩きつつ、わたしはそんな風に感じていた。


違うと言えば、電車もそうだ。

車内で次の停車駅を告げるアナウンスはとても聞きやすかった。

一人一人の乗客は程よく距離を置いていた。

車窓から時折花の香りが漂った。お花畑があるのだ。

わたしは通勤ですら楽しく過ごしていた。


---


 事務局は駅のロータリーを挟んだ向かいのビルだった。


堅実な佇まいのビルは”商工会議所”となっている。6階建てだ。

商工会議所は1階だが、それ以外のテナントは”N.A.”が占めていた。


2階の”N.A.受付”で名前を伝える。

見事なフラワーアレンジに飾られた受付から現れたのは、長身にダークスーツを纏った男性だった。


「始めまして。栗木真子です」緊張しながら会釈をする。


「今日から出社でしたね。始めまして。局長の田島永一です」

彼がタジマさんだった。

「あ、父からくれぐれもよろしくお伝えくださいと言われました」

直立不動でお辞儀をするわたしに、緊張しないでいいですよと事務局内へ誘ってくれた。

うん、ハゲ部長(51)とは大違いだわ。



 「みなさん、ちょっと集まって」

タジマ局長がそう言うと、わらわらと人が現れてきた。


「今日から皆さんと一緒に仲間になっていただきます、栗木真子さんです」

よろしくお願いします、と慌てて一礼する。

タジマさんに紹介されたわたしに、みんなは次々と握手をしてくれた。


東京で商社に勤めてたんですってねえ。すごいわぁ。

ねえ、パソコンて得意なの?

結婚してるの?

何歳なの?

恋人は?

趣味は?

局長のことどう思う?

etc...


 実に好奇心旺盛で健康的な社風を、わたしはとても気に入った。

恋人もなく、ラジオDJに片思いなのだとか、パソコンはできるが特殊な事はできないので覚えたいなどなど、話したところでお茶の時間となった。


局長は自らお祝いのケーキを差し入れてくれた。

わたしの入社祝いだって。局長、好きな人ランキングに入ったわ。



 楽しいお茶の時間の後で、業務説明を受けた。

わたしは事務局の秘書室担当で、説明してくれたのは室長のアタルさん(中と書いてアタルさん。男。32才)。


ナリタ・エージェンシー(N.A.)が事務局の母体。わたしもよく知っている家電”ナリタ”は総本山。(株式公開はしていない)

事務局としての運営の内容は、アーティスト招致~イベント開催運営全般もやるが、ソフトウエア提供~運用も行うらしい。


予備知識としてタジマ局長のことも教えてくれた。

金融システムコンサルタント・海外アーティストマネージメント・環境(特に音響)コンサルタントを手がけているそうだ。すごすぎ。


予想を反して、わたしの入った会社は意外性に富んでいた。



「ま、詳しいことは時間をかけて覚えてくれたらいいよ。最初は仕事の流れを覚えること」

アタル室長は、この会社が”流れ”を大切にすると教えてくれる。

会長とタジマ局長の口癖だそうだ。


”全ては正しい流れに沿って進むべき。”



わたしの新しい職場はアタリだった。



挿絵(By みてみん)


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