27.マコ転職3(2000年.春)
会社を辞める日、いつまでもサエはぐずぐずと泣きじゃくっていた。
よしよしと慰めながら、テキパキと私物をまとめたり最後の引継ぎをこなして
社内のみんなにお別れのお菓子を配って歩く。
最後に自分の部署へと戻る途中の廊下に部長が立っていた。
思えば部長はわたしの中で、笑いのトップだった。
ネクタイ曲がってる・メガネ押し上げる・電話コード遊ぶ・オールバック一部白髪・知ってる病・BMWキーホルダー(実はカローラ)・・・
「部長」わたしは部長に釘を刺す。
「サエを泣かせないでくださいよ」
慌てて周りを伺う部長に一礼して、わたしは退職した。
会社を出ると空を見上げた。
東京の空。
バイバイ。
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翌日、「まとめておまかせパック」の引越し業者を見送った。
不動産屋と区役所と銀行と…諸々の手続きを済まして電車で郷里へ帰り着いた時には夜遅くだった。
父のタクシーで帰宅して、久しぶりに実家の自分の部屋で布団にくるまった瞬間に
心の底から安心できたことを実感する。
布団と枕から太陽のにおいがした。
隣の居間から、父がステレオセットで聞いているのだろう、ナットキングコールの優しい歌声が聞こえる。
やがて深い眠りがわたしを包み込んでいった。