23.イベント当日3
パウロにDJとステージをバトンタッチする前に、少しの時間をトークのために拝借した。
僕には、今回のイベントに至った経緯を、会場のみんなに語る必要があるからだ。
-今回の僕のイベントには、こんな事情があります。
会長がこの土地を大切に想う気持ち。
森は森のままが良く。川は川のままで良く。山もまたしかり。
きれいに気脈が通じて始めてこの一帯が自然な力を保てること。
そのような場所の保存が軽く見過ごされ、いびつな都市化を受け入れることのリスク。
都会は確かに魅力的であり、万能の魔法のように思える。
しかし大地の望みが相反するならば、恩恵は受けられないであろうこと。
そんなことを僕は自分の気持ちで語った。
語り終わった時、会場の一画から始まった拍手はやがて巨大なうねりを伴った喝采へとつながった。
やがて会場はパウロたちのラップとダンスで盛り上がりを見せる。
僕の役目はここで終わりだ。
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ステージ裏から降りた僕を会長とタジマが拍手で迎えてくれた。
「タロさん。ありがとうっ。わたしらの想いをよく表現してくだすった!」「同感ですっ!」
彼らの力強い握手と抱擁にびびりつつ、僕は改めて御礼を言う。
「僕の方こそ、ありがとうございます」
「そういえば、タロさん。大切な人が訪ねておいでですよ」
少しいたずらっぽい笑顔になる会長とタジマ。なんのことだろ?
困惑する僕にウインクした会長がタジマに促すと、控え室のテントの外から誰かが入ってきた。
「タロさん。始めまして」
聞き覚えのある暖かい声。長い髪。穏やかな笑顔。
会場の熱気がテント越しに伝わる中で、彼女は僕に微笑んでいた。
知らないはずのその女性を見た瞬間、僕は恋に落ちた。