21.イベント当日
「ヘーイ!ハピ!あ、そかそか、”タロ”だったね。ナイストゥミーチュ!」
満面の笑みで僕にハグしてくる黒人パウロ。
キスはやめろっての。
パウロの後ろで同じようにニカニカしている”FingerPlay”のみんな。
「久しぶりだねハッピー!」とハイタッチしてくれる。
今のニックネームが”タロ”であると改めて説明してくれるパウロ。
「すごいね、ハピ」
移動中の送迎バスの中で早くも宴会を始めるFingerPlayダンサーズをたしなめながらパウロは笑顔を向ける。
パウロは語る。
業界でも有名な大手芸能プロダクションを通じて、今回のオファーは打診されたらしい。
スポンサーは広域チェーン展開をしている大手家電量販店であり、イベントの結果次第でその後の契約も考えているようだった。
どうやら会長たちはとても大きな力を持っているようだ。
やがてバスは会場に到着した。
会長の自宅が今日は”ホタルの森”だ。
驚いたことに正門でなく、”東門”を今回のためにあつらえたらしい。
巨大な樹が二本そびえ立った”東門”からバスは入場する。
レッドカーペットに導かれて門からまっすぐに森の奥へと進んで行く。
木々の間から覗く空の青。
絶え間なく聞こえるせみと鳥の鳴き声。
遠くに感じる海の香り。
この場所が好きだ。
パウロも新鮮な空気を感じているようで、鼻の穴をフガフガさせている。
目が合うと照れくさそうに鼻をかいた。
FingerPlayダンサーズは…酔っ払っている。
森の奥に設置された会場を目にしたみんなが歓声を上げた。
ぽっかりと切り取られた空。
巨大なステージにPA設備がそこにあった。
いったいどれだけの経費が掛かっているのかと考えると恐ろしくなる。
ステージ裏に設営された大きなテントの中でみんながくつろいでいると、会長が顔を覗かせた。
今日の会長はスタンダードな礼服を着こなしていて、とても洗練された紳士に見えた。(ヤクザには見えないね)
…タジマは礼服でありながら異質な雰囲気だったけど。
「え~。こちらは”ホタルの森”イベント主催者の会長さんです」
パウロたち出演者に紹介するタジマ。
「広域チェーン展開中の家電量販店”ナリタ”の会長、と言えばおわかりになりますね」
えぇっ。そんな事業にまで手を拡げていたとは・・・。ただのローカルヤクザさんだとばかり思ってたよ。
タジマの話を聞いてようやく腑に落ちた。
短期間でイベント事務局まで立ち上げたり、巨大なピーアール戦略は彼等の力で始めて可能となるのだ。
やがてイベント会場に続々と到着し、設営を始めるお祭りのプロ”的屋”の集団。
コワモテな彼らが到着一番に会長とタジマへ丁寧すぎるほどのご挨拶を行う光景が、”その筋”であることを露見していた。
直立不動で固まるパウロたち。酔いが覚めるFingerPlayダンサーズ。
そりゃまあ、怖いよねえ。
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太陽が西の空に沈む頃、本番前の緊張をみなかみ締めていた。
大型バスから輸送されたお客様から聞こえるざわめきと歓声。
そして、森の向こう-海の辺りから、イベント開始の花火が上がった。