19.イベント告知1
朝方までマコさんに電話をつきあわせてしまった事を
僕は昼過ぎに目覚めた後、心配になってしまった。
寝不足のまま仕事に行ったであろう彼女を思うと、いたたまれなくなってしまう。
それなのに、僕はうれしかったのだ。
いちリスナーでしかなかった彼女は、昨夜の会話を経て近しい存在になっていたからだ。
眩しく照らす日差しにまぶたをこすりながら、服を脱いで熱いシャワーをゆっくりと浴びた。
インスタントコーヒーを飲みながら、携帯を開く。
携帯には確かに彼女と会話をした痕跡が残っていた。
会長から電話がかかってきたのは、軽い筋トレを終えた頃だった。
「今夜でしたな、例の告知は。がははっ」
朝から元気な人だ。
「わたしらに何か手伝える事はあるかね? 遠慮なくいってくださいよ。
それともジャマな輩でもおるとか?」
「とんでもないっ。大丈夫ですよ。とりあえず先日の打ち合わせ通りでお願いします」
危険な方向にがんばりそうな会長にあせりつつ、僕は電話を切った。
早めにラジオ局へ出勤し、かねてからの打ち合わせが順調に進んでいることを確認したところで
おじさん(マキの親父さんのおじさんで局の役員)に呼ばれた。
役員室を訪ねると、高そうなソファに座るよう促された。
「あなたがDJタロとして局入りしたのは、もう3年も前なんですねえ」
感慨深げにタバコをくゆらすおじさん。
「おかげで我が局も人気が上がりました。タロさんのおかげです」
「そういっていただけると、僕もうれしいです。でも、今日はその話が本題ではないみたいですね」
少し困ったような顔のおじさんは、うなずいて話を繋いだ。
「うーん、見抜かれちゃったかぁ。さすがタロさんだ。
実は周囲から色んな声が聞こえてましてね。ほら、例の会長さんトコね。
あれ、危ないんですよ。誰も怖がってウワサすらできないくらい」
そう言ってデスクキャビネットから一冊のファイルを取り出し僕に見せてくれる。
それは長期間に渡るスクラップブックだった。
広域暴力団と真っ向から争う先代の事件。
血塗られた抗争。
地域住民との確執~孤立化。
現会長の襲名披露式典での対抗勢力の襲撃事件…先代の死。
「ありがとうございます。危険な事は良く理解しました。
でも僕は、自分の目と耳で、見て感じた事を信じます。
今日の告知では決してあなた方に対して迷惑はかけません。
うまく言えなくてもどかしいんですけど、信じてください」
僕はまっすぐにおじさんの目を見つめてそう言った。
そして、放送が始まった。