15.マコ(ダイジェスト3)
1999年。夏。
部長がしつこい。
新入社員への興味が一通り薄まり、あたしが彼氏と別れたことを嗅ぎつけた部長。
一人の夜は寂しいだろうとか、
若いうちの経験は多い分肥やしになるとか
年上の魅力を知りたくないかとか。
魂胆がミエミエなんだよね。
年1回のデスク移動。なぜ部長の隣なのよ。
あぁ、神様。あたしが何をしたのよ。
部長(51才)はいつもあたしの服装をチェックしてくる。
「おやおや、マコくん。昨日と同じスカートですねえ。
もしかして、イイコトあったんじゃないのかなあ。まさかして。
あ、その目、しつこいなあとか思ってるのかなあ。まさかして」
着ようと思ってた洋服をクリーニングに出したまま忘れてたのよ。
予備のスカートは干したまま雨に汚れたのよ。
あんたが残業させなければ間に合ったのよ。
部長(51才・趣味は風俗)はいつもひけらかす。
「最近、若者の間では"エクステ"とか言うの?知ってる?
あれってどう思う?」
あきらかにエクステが何を指してるか理解できてない。
目が泳いでるし。
エックスの形に手をかざすことだと教えておく。
「たとえばさ。マコくんは年上とかってどう思う?」
「最近気になる映画は?---誰かと行く予定?」
「テレビで好きなのは?」
おそらくこいつは中年デビューだな。
誰か相手してあげてよ。
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疲れたあたしを癒してくれたのは、やはりタロちゃんだった。
-上司に疲れちゃったんだね。世代が違うと余計に伝わりにくいし。
-そんなマコさんから「癒してくれる曲」をリクエストされました。
-笑顔を取り戻せますように。
-ナットキングコール。「スマイル」。
タロちゃんの声。笑顔がこぼれるよ。