13.マコ(ダイジェスト1)
1997年12月のクリスマス。
あの夜、タロの番組を知ってから、あたしは一人の夜もほっこりとした気持ちで眠りにつくことができるようになった。
まるでそれは、小さな子供の頃から知っている温もりのようだった。
その地方局にリクエストを届ける方法を、あたしは翌日から探し始めた。
その局は新聞のラジオ欄にも載っていなかった。
友人も聞いたことがない名前らしい。
パーソナリティ"タロ"の名前も見つからない。
(当時はインターネットも限られた検索しか使い道がなかった)
新聞の片隅でゴシップ的に扱われたその記事に気づかなかったら、そのまま忘れてしまっていたかもしれない。
記事によると、前任のパーソナリティが突然辞めてしまったところに、タロへ白羽の矢が立ったらしい。
”都会の風を当局に”と謳われた見出しのわりに、紙面の扱いは小さいものだった。
新聞社に連絡し、ラジオ局の窓口を通して、ようやく”リクエスト窓口”を教えてもらうことができた。
***@ からはじまるそのアドレスはどうみても企業アドレスとは思えなかったが、ありがたくリクエストさせていただいた。
せっかくだからとその晩、ワインを傾けつつラジオを聞いてみた。
うれしいことに、あたしのリクエストはいきなり番組で読み上げられた。
-ぷっぷっぷーーーん。
-ハイ、エブリワン!
-良い子はみんな夢の中。
-でも眠れないあなたには、今夜も僕がお相手を。
-”タロと今夜も眠らない番組”始まるよ!
-
-…さあ、いきなりですが今夜はリクエストが到着しています!
-東京のマコさん!ありがとう!
-「こんばんわ、タロさん。先日、ナットキングコールがかかった時にハマりました」
-「今夜も素敵な選曲をお願いしますね。今日もナットキングコールが聞きたいです。マコ」
- うれしいですねえ。
-こういうリクエストを頂けるの、タロはうれしい!
-これからも聞いてやってもらえますか?お願いしまぁす!
-では、リクエストにお答えして。
-ナット・キング・コール。ルート66!
-
あたしはその日から、帰宅することが少しずつ楽しくなった。