122.N.A.新年会2 ~エンディング~
「みなさん、本日はお招きに預かりありがとうございます」
タロちゃんがそう言って挨拶を始めた。
(左手に金ぴかマイクを握っている)
「さあ、ナリタ会長に鏡開きをお願いしたいと思います」
会場が暗くなり、スポットライトに照らされてナリタ会長が現れる。
会長はみんなに一礼し、飾り付けられた樽酒に向かった。
鳴り響くドラムロールとともに木槌を高く振り上げる。
派手に割られた樽から日本酒が飛び散り、みんなで拍手を贈る。
「今日は来てくれてありがとう、タロさん」
そう言って会長がタロちゃんと握手をする。
「みなさん、わたしはN.A.事務局の今後について常日頃から考えておったんです」 と会長が言葉を続けた。
いつもはふざけた感じの会長が、真剣な顔を見せた事で、わたし達は一斉に緊張する。
「これまでの我々は、正しき流れを模索して来ました。皆さんを抱える企業として、人として。
しかしながら一つ、欠けていたわけですな」
そう言って会長は一呼吸置いた。
「それは何かとわたしは考えて、ようやく思い至ったのです。
確かな想いを伝える”力”を。
強くて暖かく自分の言葉で表現できる”力”。
それは企業理念と成りえると思い至ったのです」
会長がタロちゃんを振り返る。
「・・・タロさん。あなたに一つだけ伺いたい。
あなたにとって最も大切な事はなんですかな?」
タロちゃんが答える
「僕にとっては愛です。僕にはそれしかない」
「さすがですな、タロさん。
あなたの中に全ての答えがあったのです。
是非これからも、我々を導いてくれますかな?」
そう言うと、会長がタロちゃんを抱きしめた。
照れくさそうなタロさんは「喜んで!」とまるで居酒屋店員のように相槌を打った。
会場のみんなが笑い、声援と拍手を贈った。
-この素晴らしき世界(What a Wonderful World)-Louis Armstrong
しゃがれた(けれど暖かい)歌声が会場に満ちる。
鳴り止まない拍手が、会長とタロちゃんを包んでいた。
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それは、わたしたちのストーリー。
宇宙旅行はまだ夢の時代だけれど、わたしたちは日常というストーリーを紡ぎ続けている。
タロちゃん。
あなたのいるこの世界が大好き。