117.都市伝説・エレーンの噂
『タロちゃん、今日は何時に帰るの?』
エレーンがそう聞いてきたのは、僕が仕事に向おうと玄関で靴を履いている時だった。
どうしたの?と僕は聞いてみる。
エレーンは身体をぺろぺろと舐めて毛づくろいを繰り返す。
(何か言いだし辛いらしい)
僕は靴を履き終えてエレーンに向き直る。
エレーンは『えっとね』と伏せ目がちに口ごもる。
『友達が来たがってるのよ』 エレーンはそう言うと、再び毛づくろいを再開した。
僕は「いいとも、ぜひ連れておいでよ」と言い、エレーンにウインクする。
エレーンは「ありがとう」と言いながら僕の肩に飛び乗る。僕の耳をがしがしと齧る。
よほど嬉しかったらしい。
そうして僕は仕事に向ったのだ。(忘れられそうだが、僕はラジオDJなのだ)
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僕はラジオ番組の放送中、いささか困った事になっていた。
リスナーさんの間で、”化け猫”都市伝説が話題となっていたのだ。
-わたしが聞いたのは、空中から突然降ってくる悪魔のような様相の化け猫です。
-わたしは悪魔の呪文をささやく化け猫の話だわ。その言葉を聞くと発狂しちゃうらしいの。
-僕が聞いたのは、夜道で電柱の影からおじいさんが出てきて、化け猫に変化する話です。
-自分は、口が耳まで裂けた化け猫がいると聞きました。
-俺が見たのは、電柱に這わせたケーブル線を伝って歩くネコです。言葉を話しました。かわいかったですよ。
おそらく、最後のリスナーさん(ケーブル工事士)のは本物だろう。(エレーンが僕に話した内容と同じだからだ)
僕はみんなのお便りを読みながら、「都市伝説ってそんなものですよね」と締めくくった。
-それでは最後はリクエストにお答えして
MyAll -MariahCarey-
僕はミキサーのvoice用トラックがOFFになっている事を確認すると、大きくため息をついた。
帰ったらエレーンに注意を促そう、と僕は決意する。
(しかし、電線の上でかわいく会話するエレーンを思うと、その決意も揺らぐのだ)