表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タロと今夜も眠らない番組  作者: シュリンケル
第四章
116/123

116.地上7.5mの展望~ケーブル工事士とエレーン~


 あの不思議な猫に会ったのは、いつもの作業中の出来事だった。


俺はケーブル工事士だ。

名前は掛井修二(かけいしゅうじ)。架線工事には縁起が良いと元請会社には言われている。


電柱から電柱を、一本の鉄線に沿って移動する。

7.5mのスライダー梯子(はしご)を引っ掛けて上空まで登り、一本の命綱を頼りに太いケーブルを鉄線に這わせる仕事をしている。

ケーブルはくねくねとした結束線(針金を柔らかいプラスチックで覆ったバインド線)で丁寧に巻いて行くのだ。


上空で常に作業をするために、少し作業をしては上空で梯子をずらして移動する。

地道な作業だ。


 俺の作業はお年寄りによく見学される。

見ていて飽きないらしく、彼らはいつまでも道路の下から俺の作業を眺めていたものだ。



 そんなある日の出来事である。



俺が、ケーブルを鉄線にぐるぐると結束線で巻いていると、視界の端から一匹のネコが現れたんだ。


ネコは鉄線を器用に渡って歩いてきた。


 『ここは良い眺めね』 とネコは話したのだ。

『あ、作業のジャマはしないわ』 あっけにとられた俺をちらりと見た後、ネコは優雅に目の前を横切って行く。

『あなた、ケガしないようにがんばるのよ』 そう言うと、しっぽを三度おおきく振って去って行ったのだ。


 俺はぽかんと口を開けたまま片手を振って見送った。



 その晩、工事会社の事務所に戻り作業着を着替えた俺は、同僚と居酒屋で飲んでいた。


「掛井さん、こんな噂を知ってますか?」 同僚の中村が問いかけたのは、何度目かの乾杯の直後だ。


何をだよ、と俺は聞いてみる。


「化け猫っすよ」 中村は口を大きく開け、両手を構える。化け猫のつもりなんだろう。



 中村が小耳に挟んだ噂によれば、この地域に最近”化け猫”が出没しているらしい。

そのネコはどこからともなく現れては、恐ろしげな言葉を話すらしい。

ネコの口は耳まで大きく裂けており、話す言葉を聞いた者は発狂して死んでしまうと言う。


 「俺、言葉を話すネコと会ったよ」と俺が言うと、中村はビールを噴き出した。

「ま、マジっすか?」 こぼしたビールをおしぼりで拭いながら、中村は目を丸くする。


 「そ、今日会ったんだ。かわいいネコちゃんだったぜ。ケーブル線を歩きながら俺に挨拶して通り過ぎたんだ」


もちろん中村は信じなかった。


明日からは、と俺は思う。


ポケットに煮干を入れておこう。


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ