108.護身術2
-骨法-
”柔術”を体得する上で、他の格闘技と一線を画しているのが骨法であろう。
通常、取り組む場合の「手の形」は、やや上向きで力を込めているものだ。
それをいかに下へ向けさせるか。これが柔術の肝となるのだ。
相手の手の形を無力化し、体術をもって力を制す。それは骨法をもって可能となる。
スポーツとしての柔道の裏の形(原形)を伝承する。それが柔術の真の姿である。
(一説では柔術から空手や柔道に派生したと伝えられる)
では具体的にはどのようなものだろう。
それには裏投げが連想しやすいだろう。
掴んできた片手を取り、手首の力を殺す(骨法)。
そして前襟ではなく裏襟を掴んで(身体を背後に回りこんだ上で)背負い投げる。
投げ方次第では一瞬で腕を折り、脳天から叩き落す。
(それは目を瞑った状態でも可能となるのだ)
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僕は近所の公園で、ツヨシに一つずつ教えることにした。
立ち方はやや内股で。(へそ下三寸に意識を集める)
すり足は軽やかに。(水の上を歩くが如く)
呼吸は長く途切れなく。
そうして四方八方への移動をひたすら練習する。
30分も練習しているうちに、ツヨシは全身から汗をかいた。
公園の向こう側で遊んでいた子供達が遠巻きに眺めている。
僕は意識を集め、身体に戻す。(気を補充するのだ、と”李”先生は言っていた)
ツヨシも見よう見まねで動作を繰り返す。
「今のを毎日やるんだ。息切れしなくなるまで」
今日はここまで、僕の言葉にツヨシは無言で頷く。
汗びっしょりで。まっすぐな瞳で。
公園の向こう側で再び子供達が遊び始める。
(サッカーを放り出して、彼らはすり足で遊んでいた)
空を横切る飛行機を、ツヨシが見上げる。汗が頬を伝っていた。
そのようにして、僕とツヨシの特訓が始まった。