105.ツヨシの家6・ユーレイは語る
姿を現したユーレイ。
黒スーツの中年男性を、ツヨシは「父さん」と呼んだ。
エレーンに向ってユーレイがお辞儀をする。
『どうもありがとう』ユーレイはそう言うと、話を始めた。
とても静かな口調で。
『確かに、私はツヨシの父親です。
襲名披露式典で爆死をした日から今日まで、私はツヨシを見守り続けていました。
私が危惧した通り、ツヨシは自ら孤独に陥りました。
人を信じず、生き残った自分自身を認める事もできず、誰を憎んでいいのかさえ分からなくなっていたのです。
やがて、自分の殻に閉じこもり、この家も汚れたまま放置してしまった。
汚れた環境に馴染むうちに、ツヨシは自分自身まで汚そうとしていたのです、無意識のうちに。
まずい事に、汚れた家には悪霊が好んで住み着こうとします。
私はそれをとても心配したのです』
だからなのです。そう言うと、彼は左手に持っていた長い柄のホウキを示した。
『そうじ』 エレーンが口を開いた。
『掃除してたんでしょ』 エレーンが彼にウインクする。
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あの恐ろしげな音。それはツヨシの父が霊となってお掃除をしていた音だったのだ。
ツヨシの父は僕に向って頭を下げる。
『タロさん。あなたに出会ってから、ツヨシは変わりました。
私は、ツヨシが前を向いて生きようと思えるまでは成仏できなかったんです。でももう大丈夫だ。
あなたは彼に”愛”の力を教える事ができるでしょう。
そしてあなたの護身術は、ツヨシの宝となるでしょう。
どうぞ、ツヨシをよろしくお願いします。私はもう行かなくちゃならない。天国で妻が待っているんです』
じゃあな、と言って彼はツヨシの頭をなでるフリをした。(彼の手はツヨシの頭をすり抜けた)
彼の身体は金色に輝き、ゆっくりと上昇した。
『掃除しろよ』 それが最後の言葉だった。
僕達は言葉も無く見上げていた。彼の消えた先を。
窓の外では大きな月が静かに輝き続けていた。