104.ツヨシの家5・ユーレイの秘密
僕達は二階のツヨシの部屋に並んで横になっていた。
午前0時のぼんやりと暗い部屋で、その音は聞こえた。
ざ、ざーー。・・・さ、さ、さーーー。
僕が静かに身体を起こすと、ツヨシと猫山さんも起き上がった。
ツヨシが”音”のする方向を指で指し示す。
確かにその音は小道から聞こえているようだった。
・・・ざーーー。ざ、ざ。
潮騒のようにも聞こえるし、遠い雨音にも聞こえる。
衣擦れにも聞こえる。
部屋の温度がとても下がった様に感じる。
僕達は動くことさえできないまま”音”が近づくのを聞いていた。
・・・ざぁーー。ざ、ざ、ざーーー。
気がつけば玄関の中に音は移動していた。
少しずつ、本当に少しずつ近づいているようだ。
ぎしっ、と階段がきしむ。
ざらっ、ざらっと階段で音が近づく。
一段、また一段、その音が近づいていた。
ツヨシが恐怖に震える。
そして、”音”は階段を上りきった。
しかし僕は感じていた。ドアの向こうの気配を。
前触れも無く、”音”が室内に響いた。
ざ、ざ、ざ、ざ、ざ。
僕は無意識につぶやいていた。
「エレーン」
ざざざざざざっと音は激しくなる。
その時である。
聞きなれたあのノイズが近づいてきた。
じじじっとノイズが大きくなる。
部屋の端の天井から一瞬の閃光が走る。
『きたわよ』
エレーンはそう言って僕の頭に飛び乗った。
少し得意そうである。
『あ~。こりゃやっかいなのがいるわね』と言って、エレーンはあくびをした。
僕の頭から飛び降りた彼女は一度大きく伸びをして、しっぽをピンとのばした。
『ちょっとあんた。ユーレイちゃん。出てきなさい』
エレーンがしっぽをぼんっと大きく膨らませる。
”音”が止んだ。
音のしていた辺りが、ゆらゆらと陽炎のように滲み始めたのはその直後だった。
ぼやっとした蜃気楼のように人影が現れる。
人影は少し光を帯びている。
徐々に姿がはっきりとしてくる。
ツヨシがはっとした表情になる。
現れたのは黒いスーツ姿の中年男性だった。
”男”はキョロキョロと周りを見回す。
ツヨシがへなへなと座り込む。
「父さん」 ツヨシは声を震わた。
窓の外から射し込んだ月の明りが、ツヨシの頬を照らしていた。