103.ツヨシの家4・いじめについて
路地の突き当たり。
車止めの鉄杭を境に小道が始まる。
僕達は顔を見合わせ、頷く。
ツヨシの話を聞いた後となっては、この場所を歩くことだけで言い知れぬ不安を感じた。
小道の先に佇むツヨシの家。
古い外灯は時折点滅を繰り返している。
道の端には所々ゴミが落ちている。
僕達は足早に小道を抜け、玄関を開ける。
灯りの消えた家の中は、真っ暗だ。
来た時とは明らかに雰囲気が違う。
ツヨシが靴を脱ぎ捨て、家中の電気を急いで点ける。
テレビを点け、バラエティ番組の笑い声が明るい音楽と共に流れてようやく、家の雰囲気は柔らかくなった。
これは怖いな、と僕は思った。
その晩、僕達は一緒にツヨシの家に泊まることにした。
テレビ番組出演オファーをツヨシと話し合い、ついでに恐怖体験の真偽をこの目と耳で確かめようと思ったのだ。
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「番組出演の話、どう思う?」 僕と猫山さんが聞く。
「僕は遠慮するよ」そう言ってツヨシは顔を曇らせた。
何か問題があるのか、と僕はきいてみた。
ツヨシは躊躇いながら話し始めた、学校に行かなくなった理由を。
学校に通っていたツヨシがイジメにあったのはほんの些細な事が原因だったらしい。
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ツヨシは言う。
クラスの中で、つまはじきにされた男の子がいた。佐々木君だ。
佐々木君はとても気が弱い。
一匹の蛾が飛んできただけで、大げさに転んで驚く。
(運の悪い事に、転んだ目の前には足を組んで座った女子がいた)
女子は自分のスカートの中を覗かれたと思い、悲鳴を上げる。
その女子はアイドル・リコと呼ばれていた。
それを見ていたのがクラスのいじめっ子達である。
いじめっ子の一人、ケンゴはリコに気があったらしい。
ちがう、ちがうよ、と慌てる佐々木君にいじめっ子が詰め寄り、その後ろでわめきちらすアイドル・リコ。
ツヨシはとっさに言ったのだ。「佐々木は蛾に驚いて転んだんだよ。見てただろ?」
それがイジメのきっかけとなったと言う。
-あいつは生意気だ。ちょっと頭がいいからって。-そんな会話が周囲から聞こえたのだ。
次の日には大掛かりな噂がまことしやかにささやかれ、やがてツヨシにもそれらは聞こえた。
数日後、ツヨシが帰ろうと下駄箱で靴を履いていると、いじめっ子が取り囲んだ。
彼らは陰湿だったが、力も強かった。
6人に散々殴られ、ツヨシは泣いた。
そしてツヨシは二度と学校に行かなくなったのだ。
その半年後、ツヨシの両親が亡くなった。
ヤクザ関係者のレッテルを貼られたツヨシは、さらに引きこもることになった。
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テレビに出た事で、またイジメに逢うのはつらいのだと、ツヨシは言う。
自分は弱いから、とも言う。
だったら強くなればいいじゃないか。僕はそう言ってみる。
いつまでも逃げ続ける必要など、どこにもないんだから。
「僕だって」 身体を震わせてツヨシは言った。
「僕だって強くなりたいよ。名前がツヨシなのにさ」 彼は両手を強く握り締めた。
「強くなれたとしたら」と僕はツヨシに聞いてみる。
「強くなった時、お前は悪用するか?」
ツヨシは僕をまっすぐに見つめて、しばらく考えていた。
「学校に戻る。そして彼らに謝らせるんだ。僕は悪用なんてしないよ」
ツヨシがきっぱりとそう言ったので、僕は決心したのだ。
彼に護身術を教えようと。
でも、それはまた次の話だ。
僕達には恐怖現象を見極める使命があるのだから。
-am 0:00-
ユーレイはやってきた。
私ごとですが、この話を投稿した日に息子が高校入学しました。




