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タロと今夜も眠らない番組  作者: シュリンケル
第四章
102/123

102.ツヨシの家3


 ファミリーレストランの一画。

僕達は明るい店内で一息ついている。


 ツヨシの恐怖体験を聞くその前に、おいしいご飯を食べたいのだ。


ツヨシと僕は「ハンバーグセット」を、猫山さんは「欲張りステーキセット」を食べることにした。

(猫山さんは「乙女のフルーツパフェ」も追加した。イチゴとメロンとバナナが盛りだくさんのデザートだ)



---


僕達の食事が終盤に掛かる頃、ツヨシは恐怖体験の続きを話し始めた。



 その異変が始まったのは、ツヨシの両親が亡くなってしばらくしてからだと言う。


最初に気がついたのは、夜も更けた1時ごろだった。

ツヨシはトイレに行こうと布団から起き上がった。

部屋の中には、窓の外から外灯がぼんやりと射し込んでいた。

寝ぼけまなこでトイレを済ませ、再び自室へ戻ろうと廊下を歩いた時に、その音が聞こえたのだ。


滅多に掃除もしない薄汚れた廊下の上で、ツヨシは震えた。


ざ・・・さー・・・

さっ、さっ、・・・ざーー・・・

(足音はしなかった)


そのノイズは一定の間隔を置いて聞こえている。

少しずつ、少しずつ、音は近づいて来るようだった。


「逃げなきゃ」とツヨシは強く感じた。

しかしツヨシの足は動かなかった。動けなかったのだ。

自分に向って何か得体の知れない”物”が近づいていると、彼は察していた。

(その音はまっすぐにツヨシを意識しているようだと、彼は感じた。)


どれくらいの時間、そうしていたのか。


”ピンポーン” 突然玄関のチャイムが大きく鳴り響いた。


ツヨシは悲鳴を押し殺して震えた。


「だ、誰?」 ツヨシは小さくつぶやく。

玄関の扉の向こうに、何かの気配を感じる。とても強く感じる。

しかし誰もツヨシには答えない。


そしてツヨシは自分でも理解できない行動をとった。

玄関のドアを開けたのだ。

なぜ開けたのかは分からない。気がついた時、彼は玄関の外に立っていたらしい。

裸足で玄関先に立つツヨシ。そこには誰も居なかったという。


まあるい月だけが、彼を静かに照らしていた。



それからである。


毎晩、路地から小道に向けて何かを擦り付けるような音が響き始め、ツヨシに促されたかのように、家の中にまでその音が響くようになったのは。


---


ツヨシが話を終え、店内に沈黙が漂う。

(明るいJ-POP音楽だけが、店内に流れていた。)


彼の恐怖体験話に、いつのまにか、周りのお客さんまでが聞き入っていたようだ。


 「それ、今も続いてるんですか?」 僕達の隣のテーブルで食事をしていたカップルの女性がおもむろに聞いてくる。

気づけば、周りのお客さんたちも頷いて身を乗り出していた。


そうしてツヨシは今でも続く恐怖の内容を話して聞かせた。レストランに居合わせた全員に。


不思議な連帯感を持って、僕達全員は聞き入ったのだ。



 帰りの会計をしていると、店内のお客さんやスタッフのみんなが集まってきた。


みんながツヨシに言う。がんばってねと。(何か困ったら連絡しなさいとメモを渡す人々までも現れたのだ)



 ツヨシの家に向う帰り道。


見上げた空に、大きなまあるい月が上っていた。


僕達はなんだか幸せだった。(ちょっぴり怖いけど)


挿絵(By みてみん)


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