婚約破棄の現場に巻き込まれたので、聖女様の背中を押して帰ってきました
今回はコメディです。
やっぱり、自分の得意ジャンルはこっちじゃないかと…。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
26.07.12 わかりづらいと思われる部分を修正しました。
※本作では執筆の補助としてAIを活用しています。AIの利用に抵抗のある方は、あらかじめご了承ください。
「ヴィオーラ!今日この瞬間をもって、お前との婚約は終わりだ!!」
私、エムロード・カーマインは、その瞬間を特等席で見ていた。
そう、婚約破棄を宣言した張本人――シャルトルーズ侯爵家嫡男、モルドレ様の真横で。
なぜそんな場所にいるのかって?
……私にもわからない。
本当にわからない。
誰か説明してほしい。
今日もお父様――宰相であるカーマイン公爵の命令で、来たくもない夜会に出席していた。
曰く、
「同年代との交流も淑女の嗜みだ」
らしい。
私は適当に挨拶回りを終え、喉を潤そうと窓際の卓へ向かっていた。
その途中だった。
突然腕を掴まれた。
そして気付いたら断罪劇の中央に立たされていた。
いや、本当に意味がわからない。
「私の愛するフレデリカを虐げた数々の悪行! 今こそ白日の下に晒してやる!」
堂々と言い放つモルドレ様。
フレデリカ……。
不吉な番号が付いた艦隊で、提督の副官でもやっていそうな名前ね。
……そんな名前の令嬢、設定した覚えはないんだけど。
「わたくしには全く身に覚えがありませんけれど。どのようなことをされたのでしょう?」
聖女ヴィオーラ・ヴァレンティア様が静かに尋ねる。
「学舎の渡り廊下で頭から水を掛けただろう!」
「その週は聖霊の浄化週間でしたので、大聖堂から出ておりませんわ」
一撃必殺。
「会計学の自習中に教科書を破いた!」
「そもそも会計学の授業を履修しておりません」
追撃。
「茶会でフレデリカを罵倒した!」
「その日は侯爵家の新緑の庭園夜会で、モルドレ様とご一緒しておりましたわ」
オーバーキル。
試合終了。
ことごとく論破されるなんて。
モルドレ様、その断罪シナリオ、ガバガバすぎます。
もう少し証拠くらい捏造してください。
私が心の中でモルドレ様にツッコミを入れている間にも、聖女様は容赦なく畳み掛ける。
「そもそも、わたくしの知るフレデリカ様は金髪で……」
私の髪は赤毛だ。
しかも目立つ。
カーマイン家は代々鮮やかな赤毛の家系である。
「瞳は翡翠のような青……」
私は青緑色の瞳。
これはちょっと自慢。
名前と同じ色なのだ。
「そして、あなた好みの緩急のある美しいシルエットの女性だったではありませんか」
……。
……聖女め。
それ絶対喧嘩売ってるよね。
よろしい。
後で倍額で買ってやる。
というか。
この流れで言ったら、私がフレデリカってことなんでしょう。
赤毛と金髪。
青緑と青。
将来性のある体型ですが、何か?
似てなさすぎるにもほどがある。
人選が雑過ぎる。
……いや、待って。
そもそも本物は?
本来ここにいるはずのフレデリカ嬢は、どこ行ったの?
私は恐る恐る尋ねた。
「失礼ですがモルドレ様。フレデリカ様はどちらに?」
「逃げた」
「……はい?」
「私を捨ててだ!」
「……」
「ウェンリーと一緒にぃぃ!!」
あ、本当にいたんだ提督。
私の知ってる提督は鈍感で奥手な人だったけど、こっちのは駆け落ちするほど情熱的らしい。
逃げた先で、例の「なんとか教」の連中と鉢合わせなければいいけど。
それにしても、逃げられるとは本当に甲斐性ないんだな、このバカ。
「真実の愛を見つけたと思ったのにぃぃぃぃぃ!!」
ドンドンドンドン!
拳を床に叩きつける音が響く。
やめなさい。
白磁の大理石が傷む。
私は床に這いつくばるモルドレ様を見下ろし、大きなため息を吐いた。
視線を上げると、聖女様と目が合う。
同じ顔をしていた。
呆れ顔である。
「聖女様、少々よろしいですか?」
私はそっと近付き、小声で囁いた。
「……侯爵家のご令息って、あそこまでおバカでしたっけ?」
「お、おバ……」
聖女様が口元を押さえる。
「多少は愚かな方だとは思っておりましたが……まさか、あそこまでとは……」
……私の設定より悪化してるのか。
「そもそも、どうしてあんな女性に入れ込んだのでしょう?」
「モルドレ様にとって、わたくしは愛想もなく、理屈ばかりの堅物だったそうです」
あー。
なるほど。
そういうこと。
そんな設定、確かに書いた。
でもね。
それは聖女として被っていた仮面なのよ。
本当の彼女は違う。
モフモフ大好き。
可愛いもの大好き。
聖女特権を駆使して舶来物の熊のぬいぐるみを集め、部屋いっぱいに並べている。
要するに、プーさん王国の女王である。
あの部屋を見たら信徒が五百人くらい卒倒する。
モルドレ様は最後までその仮面を剥がせなかった。
だから本当の彼女を知ることもなかった。
まあ。
自業自得よね。
「そろそろ、よろしいのでは?」
「……何がですか?」
「ここを去っても、です」
聖女様がきょとんとする。
「婚約破棄されたのでしょう?」
「ええ」
「なら堂々とエボニー様に会えますよね」
「――っ!?」
聖女様が目を見開いた。
「な、なぜそれを!?」
うん。
知ってる。
だって私が設定したんだもの。
そう。
私は転生者。
しかも転生先は、自分が書いたオリジナル小説の世界。
……ネット小説だったら「またか」と言われそうな展開だけれど、現実になると笑えない。
けれど、チート能力は何もない。
だから私は、世界設定の知識だけを武器に、できる限り波風立てず生きてきた。
――表向きは。
だから知っている。
公爵令息エボニー様が聖女様をずっと見守っていたことも。
聖女様がそれに気付いていたことも。
両想いだったことも。
全部。
「エムロード・カーマイン様でしたわね」
聖女様がじっと私を見る。
「宰相閣下の秘蔵っ子として噂の」
「あ、やっぱり気付いていらしたんですね?」
「ええ。断罪劇の真ん中に立たされながら、あれほど冷静でいられる方などそうそうおりません」
……違います。
あまりの惨状に思考が止まっていただけです。
「緩急のある美しいシルエット発言の件は、後ほど落とし前を付けさせていただきます」
「ふふっ」
聖女様が笑う。
「ええ、喜んで。あなたとなら退屈はしなさそうですもの。」
その笑顔、本当に反則。
そして。
聖女様は振り返る。
「モルドレ様」
凛とした声が大広間に響く。
床で泣いていたモルドレ様が顔を上げた。
「わたくしは、あなたの婚約者には相応しくなかったのでしょう」
「あ……ああ……」
「そのお申し出、お受けいたします。」
「ヴィオーラ……」
「さようなら、モルドレ様」
そう言って微笑んだ。
極上だった。
あれは反則だ。
その場にいた全員が息を呑んだ。
もちろん私も。
聖女様は軽やかに踵を返す。
まるで羽でも生えたように。
絶対今ルンルンしてる。
なんなら鼻歌も歌ってる。
大広間を出た瞬間にスキップしてても私は驚かない。
「あんなに……」
モルドレ様が呆然と呟く。
「あんなに可愛い女性だったのか……」
今さらである。
遅い。
遅すぎる。
手遅れが待ちくたびれるくらい遅い。
彼が手に入れようとしたのは、聖女ヴィオーラではない。自分の都合で作り上げた理想の女性だった。
だから、本当の彼女には最後まで届かなかった。
聖女の仮面すら剥がせなかった男に、あの笑顔は一生手に入らない。
その後。
案の定というべきか。
公爵家の馬車が聖女宮へ頻繁に出入りするようになった。
もう隠す気もないらしい。
モルドレ様は……。
まあ、想像にお任せしよう。
少なくとも、王都の酒場では当分ネタに困らなかったらしい。
そして数週間後。
婚約の知らせが王都を駆け巡った。
私はその報告を聞きながら執務室で紅茶を飲んでいた。
「エムロード」
「はい。お父様」
宰相であるお父様が書類から目を上げる。
「力は使ったのか?」
私は肩を竦めた。
「使うほどのことではありませんでしたわ」
「ほう?」
「勝手に転んで、勝手に自爆して、勝手に失恋しただけですもの」
お父様が珍しく吹き出した。
「それは否定できんな」
私は紅茶を一口飲む。
「結果的に、聖女様の背中を押すことにはなりました。予定より少し早かったですが」
苦笑しながら、お父様は頷く。
「お前は昔からそうだ。誰かの人生を決めはしないが、迷った者の背中だけは押す」
「そのくらいなら、神様も許してくださるでしょう?」
「神様は知らん」
そう言って肩を竦める。
「……だが、私は許す」
少し照れくさい。
だから私は窓の外へ目を向けた。
どこかで聖女様とエボニー様が笑っている。
その笑顔が本物なら、それで十分。
「まあ、上出来でしょう?」
「ああ」
穏やかに頷いた。
「お前らしい仕事だった」
私は静かに紅茶を口へ運ぶ。
このくらいの結末が、一番平和でいい。
……まあ。
次もきっと、巻き込まれるんだろうけど。
できれば次こそは、普通の夜会を楽しませてほしい。
今回も執筆にはAIの力を借りましたが、前作以上に楽しみながら書くことができました。
多分、私の体の半分はコメディで出来てるんだと……。
この設定を活かして、もう何作かお届けしたいと思っています。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいですし、評価やご感想をいただけましたら、今後の励みになります。
近日中に公開……できるはずの次回作も、よろしくお願いいたします。




