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5話 渾身の自己紹介が滑った湊、モブ男から幼馴染みマウントを受ける件


 航平や3人の美少女の他、陰口を叩いていたクラスメイトたちが怪訝そうに湊を見る。


(俺は一度死んだも同然。今更怖じ気づくな。お前のミッションに集中しろ、湊)


 高揚感に包まれながら、湊は教壇に立った。

 まるで選手宣誓のように、顔を上げてぐっと背筋を伸ばした。


「おはようございます、クラスメイトの諸君! 俺の名前は天宮湊だ! 今日から俺のことは『公爵(デューク)』と呼んでくれ!」


 大声で自己紹介する。

 良好な人間関係は、まず挨拶と適切な自己開示から。『公爵』というニックネームは、かつて湊の同僚が付けてくれたものだ。

 曰く、自信満々で大言壮語を吐く反面、他人に甘く押しに弱いところが偉い貴族のボンボンみたいだから、という。

 とても褒め言葉に聞こえないが、湊は気に入っていた。自分の有り様を表すのに相応しい二つ名だと思っているからだ。


 ニックネーム呼びは親友作りの第一歩。入学式直後のこのタイミングで、クラスメイトの脳裏に強く印象づけてやろうと湊は考えたのだ。


 しかし――。


「え……なにあれ?」


 クラスメイトたちの反応は薄かった。

 湊はめげなかった。


「俺の名前は天宮湊、今日から公爵と――」

「おーい、やかましいぞ新入生」


 力を込めて繰り返そうとした湊の頭を、男性教師が出席簿ではたいた。

 湊は天井を見上げ、深呼吸した。


「……コンティニューを希望します」

「ゲームオーバーだ。諦めろ」

「そのスムーズな回答。さては先生、ゲーマーですね?」

「入学初日から暴走するなと言ってるんだ新入生」


 身も蓋もない男性教師の一言に、教室内が笑いに包まれた。

 出席簿でつつかれて、湊は仕方なく教壇から降りる。彼は愕然と呟いた。


「初期ミッションで失敗? そんな馬鹿な」


 割り当ての席に向かう間、クラスメイトたちはクスクスと笑っていた。


 湊の席は窓から2列目。窓側の隣席は、相沢航平だった。ショックを押し殺しながら、湊は改めて航平に挨拶をした。


「お隣さんだな。俺の名前は天宮湊。よろしく頼む、相沢。あ、そういえば質問に答えてなかったな。俺は選抜クラスだ」

「選抜、ね」


 航平はため息をつきながら呟いた。


「エリートには変人が多いって思ってたが、こりゃ本物だな。暑苦しい奴が隣に来ちまったもんだ」


(なかなか言うな、相沢の奴。正直というか、思ったことが口に出るタイプなのかね)


 それでも、友情を育めばまた違う態度を見せてくれるかもしれない。湊は前向きに考えることにした。後ろ向きなメンタルで自分を追い詰めるのは、タイムリープ前までで十分だ。


(俺には時間がない。グズグズしていたら、3ヶ月なんてあっという間に経ってしまう。またタイムリープ前の地獄を繰り返したくないんだ、俺は)


 LHR(ロングホームルーム)が始まった。

 各々の自己紹介ののち、クラス担任となった男性教師が瑞穂学園のことや授業の進め方を説明していく。


「さて、このあと各部活の有志が集まって合同説明会が開かれる予定だ。参加自由だから、興味があれば覗いてみるといい。ウチはマンモス校だけあって、マニアックな趣味人からその道のプロ級まで揃っているから、きっと面白いぞ」


 担任の言葉に、クラスメイトたちがざわついた。近くの席の生徒と「行ってみる?」「部活もう決めたの?」などと話し合っている。


 チャイムが鳴り、LHRが終了した。

 担任が教室から出ると、多くのクラスメイトが席を立った。合同説明会に向かうらしい。


「合同説明会か。部活こそコミュニティ作りの核心。初期ミッションで出遅れた分を取り返さなければ」

「何をブツブツ言ってるのかな? 公爵(デューク)君」


 振り返ると、笑顔のギャル美少女が歩み寄ってきた。彼女を先頭に、他の2人の少女と航平もやってくる。


「や。まさか同じ学校の同じクラスになるとは思わなかったよ。よろー」

「マジで顔見知りだったんだな、暦深」


 腕を組んで唸る航平。すると彼の隣で、長髪少女がぼそりと言った。


「なかなか良い肌触りだった、天宮湊。私の周りであそこまで引き締まった筋肉の持ち主は少ない。機会があればまた触らせてくれ」

「お気に召したのなら何より。だがいきなり動脈締めるのはもうやめてくれ」

「そうだな。わかった」


 あっさりした答えだった。人によっては戸惑うところだろうが、湊は気にしなかった。

 むしろ、会話を横で聞いていた航平たちの方が驚いた表情をしている。


「他人に興味が持てない鋭理が、初対面の奴にこんなことを言うなんて。かなりのレアだぞ」

「そうなのか、相沢?」

「ああ。こいつと幼馴染みの俺が言うんだから、間違いない。鋭理の扱い方を知ってるのは男子じゃ俺くらいなもんだ」

「なるほど。それなら間違いないな」


 湊の返事に気をよくしたのか、航平は表情を緩めた。3人の少女たちの肩を叩く。


「さっきのHRでも自己紹介したが、改めて挨拶しとこうぜ。俺はもう名乗ったから、暦深からな」

「そだね。ごほん、あたしは久路刻(くろとき)暦深。クロちゃんでもこよちーでも何でもいいよ。いえぃ」

「よろしく、久路刻。珍しい名字だな」

「私は冴島(さえじま)鋭理だ。それ以上の紹介は必要ないだろう」

「よろしく冴島。視線を外されてるのは俺の気のせいか?」

「え、えっと。千代田(ちよだ)福音、です。よろしく、お願いします……」

「よろしく千代田。定期券、なくさずに済んでよかったな」


 普通に自己紹介できる有り難さが身に沁みる。

 湊が密かに感動していると、航平が胸を張った。


「俺たち4人、幼稚園時代からの幼馴染みなんだ。まあ俗に言う腐れ縁っていうか、親友っていうか、そんなもんだ」

「親友……」


 ぽつりと呟き、湊は目を細めた。


「それは羨ましいな。本当に」



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