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3話 親友作って家族の信頼を取り戻すと誓った湊、バスタオル姿の妹に追い出される件


「……着いた」


 閑静な住宅街に建つ、2階建ての一軒家。

 花壇のある小さな庭と、常に空っぽの駐車スペースと、カーテンの閉め切られた窓――一見、何の変哲もないこの家が、湊の実家だった。


 湊の体感では、1年半も留守にしていたことになる。

 入るのが怖い。

 家の中にはきっと、妹がいるはずだから。


「やり直すって、決めただろ」


 自らを鼓舞するように呟いてから、湊は家の中へ入った。


「……え?」

「あ……」


 一瞬、時間が止まった。


 ちょうど風呂場から出てきたバスタオル姿の少女と鉢合わせたのだ。

 お互いの視線がぶつかる。

 湊とよく似た目鼻立ちの美少女だった。


 彼女は天宮(ゆい)。湊の双子の妹である。


 油断していたのか、胸元を押さえていたバスタオルがするりとずれる。一瞬見えた滑らかな肌に、ホクロはなかった。


「なっ、なんでいるのよ! おに――湊!」


 バスタオルを押さえた結が、頬を紅潮させながら狼狽えている。

 湊は、妹の結と絶縁状態だった。完全に嫌われているのだ。


 その証拠に、結は背中を向けた。冷たい口調で言い放つ。


「湊が黙って家を出て半年よ、半年。もう帰ってこないかと思ってた」

「結……」

「出てって。湊がいると落ち着かない。もう私、自分に兄がいるってこと忘れるから」


 ぐっと唇を噛む湊。

 タイムリープ前なら、ここで引き下がっていただろう。結に嫌われたことがトラウマで、自分の気持ちを強く主張できなかっただろう。


 しかし、今の湊は違う。

 どん底まで落ちて、今度こそやり直すと強く誓った。そして、タイムリープという奇跡に巡り会ったのだ。


「心配かけてすまなかった、結。これからは真面目に頑張る。だから、一緒にいさせてくれ」


 結が半身だけ振り返った。彼女は戸惑っていた。


「なんで今更、そんな必死になってんのさ」

「俺には家族が必要だと思ったからだ。お前の前から逃げたのは間違いだと思い知ったからだ」

「半年間だよ? 半年間も放っておかれて、今更どう信じればいいっていうの? そんなの、もう終わってんじゃん」


 結の言葉ももっともだった。結からすれば、湊は妹を残して姿を消した薄情者なのだ。実際、そのとおりだった。湊は一度、家族を――いや、人との付き合いそのものを捨てたのだ。


 頭を下げながら、湊は必死に考えた。タイムリープしたことを結に話しても、信じてもらえないだろう。自分が本気であることを結に伝えるには、どうすればいい?


 ――ホクロの君のことが頭に浮かんだ。

 彼女と友達になると約束したことを思い出す。


「友達を連れてくる」

「……友達? なんで」

「ただの友達じゃない。苦しいときこそ助け合い、喜び悲しみを分かち合い、そして心から信頼できる存在――『親友』だ」

「湊に、親友」

「お前に、俺と親友の姿を見せる。俺はもう他人から逃げないって姿を見せる。そうすれば、お前はもう一度俺を信じてくれるか? 中学2年までの、あの頃のように」

「あの頃」


 結は再び背を向けた。それから「ふん」とひとつ、鼻を鳴らした。


「あの臆病者の湊が親友を作る、ね。そんなことができるなら、この半年間でちょっとは変わったってことになるのかもね」

「結! ああ、必ずやり遂げてみせる。心と命を預けるに足る親友を作って、必ず連れてくると誓う!」

「その無意味に熱くなるところは変わってないじゃん。全然」


 背中を向けているので、結の表情はわからない。

 だが、湊は確かな手応えを感じていた。


「じゃあ出てって」

「へ?」

「聞こえなかった? 出てってと言ったの」

「ちょ、ちょっと待ってくれ結。さっき、俺と結の間には確かなフラグが立ったんじゃないのか!?」

「あーもう。そのゲーム脳がほんっとむかつく! まだプロ気取りでいるのが気に入らないってば!」

「いや、しかし俺はとっくにプロを引退――」

「つべこべ言うな! 半年間も帰ってこなかった馬鹿兄貴が、簡単に家に入れると思うな! 私の裸も見たくせに!!」

「身内の贔屓目をさっ引いても綺麗だったぞ」

「デリカシー皆無なとこも叩き直してこい! とにかく、駄目なもんは駄目!」


 大声でそう言い放つと、結は再び脱衣所へと飛び込んだ。


「湊はお金あるんだから、駅前のビジホに泊まってくれば!? 新しくできたでっかいとこがあるじゃん! あそこなら荷物があっても問題ないんじゃない!? 平日だから十分空いてるでしょ!」

「半年前に工事中だったあそこか。なるほど。冷たく突き放したようでしっかり配慮が行き届いた提案、さすが結だな」

「そーうーじゃーなーい!」

 

 脱衣所で地団駄を踏む気配がする。


「とにかく! 私が『うん』って言うまで帰ってこないで!」


 結の強い主張に押され、湊は仕方なく回れ右した。玄関の扉を閉め、天を仰ぐ。


 追い出された悲しみはある。

 けれど、それ以上に希望にも燃えていた。


「半年……いや、タイムリープ前を含めたら1年半ぶりに結と話せた」


 拳を握りしめる。

 攻略の糸口はつかんだ。後はそれを全力でたぐり寄せるだけ。


「今度は間違わない。もう一度、人生をやり直す。リマッチだ!」



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