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18話 元プロの湊、人気VTuberから身バレの相談に真摯に応えて心を開かせる件


 ――放課後。


 湊はまず、帰り支度をしている航平の席へ向かった。


「相沢、ちょっといいか?」

「……何だよ」

「田島からこれをもらったんだ。この前のVRゲームの特典らしい」


 通学鞄からファミレスの割引券を2枚取り出し、航平に差し出す。


「俺は用事があるから、誰か誘って行ってきたらどうだ?」

「へえ。てっきり鋭理を誘うもんだと思ってた」

「声はかけたが、『今日は睡眠の気分』らしい」


 そう言って振り返る。鋭理は自分の席で、腕枕して寝息を立てていた。寝不足が堪えているらしい。


「フラれたな、天宮」

「彼女らしくていいじゃないか」


 湊が肩をすくめると、航平は頬を緩めた。朝から不機嫌だった彼だが、ようやく少しは機嫌を直したらしい。


「そんじゃ、ありがたくもらうぜ。おーい、福音。ファミレス行こうぜ、ファミレス」

「あ……ごめんなさい、航平君。今日は私、配信の準備がしたくて」

「あ、そう。じゃあ暦深でいいや。行こうぜ」


 航平は暦深を連れて、さっさと教室を出ていく。

 しばらくして、目を覚ました鋭理も欠伸をしながら、「また明日、ミナト」と言って帰っていった。


 クラスメイトや担任教師から頼まれていた雑用を手早く済ませ、湊も教室を出る。その足で図書室へと向かった。


「天宮君、こっちです」

「悪い。遅くなったな」

「いえ。いつも皆のお手伝い、お疲れ様です」


 図書室の奥にある閲覧スペースで、福音が出迎えた。他に生徒の姿はない。瑞穂学園には読書コーナーを兼ねたカフェテラスがあって、本好きはだいたいそちらへ行くのだ。


 席に着いた湊に、福音は何故か頭を下げてきた。


「あの、ありがとうございます、天宮君。あの割引券、私に気を遣ってくれたんでしょう?」

「ああ。休憩中に田島が『ペアだと使い道がない!』って嘆いていたから、無理言って譲ってもらったんだ。千代田は、相沢と距離を置きたがってたから、いい口実になって良かった」

「はい……本当に、助かりました」


 すとん、と椅子に腰を下ろす福音。そうしていると、ただでさえ小柄な彼女がさらに小さく見えた。


「天宮君を呼んだのは、昨日のことを相談したかったからなんです」

「相沢が色々暴露してたな。『夜空姫ネオン』の配信、とても楽しそうで好印象だった」

「み、見たんですか!?」

「もちろん。昼休憩にアーカイブを見られるだけ見た。相沢に見つかると厄介だから、ひとりでこっそりとな」

「どうりでお昼休みに姿が見えないと思いました。鋭理さんが残念がってましたよ」

「それは嬉しくも申し訳ない情報だ。後で詫びておこう」


 湊の独特な物言いに、福音はくすりと笑う。それから「ちょっと羨ましい」と小さな声で彼女は呟いた。

 そんな福音を、湊は真っ直ぐ見据えた。


「千代田、お前は素晴らしいエンターテイナーだ。尊敬するよ」

「天宮君……!」

「頑張ってる。成果も出してる。そんなお前と話ができることを、俺は光栄に思う」


 どこまでも真面目な表情で告げる湊に、福音は目を丸くし、そして頬を緩めた。

 彼女はスマホを取り出した。


「この前、ショッピングモールで遊んだときのことを覚えていますか? あのとき私、天宮君と鋭理さんのプレイがあまりにもカッコよくて、動画を撮っていたんです。それを夜空姫ネオンの配信で取り上げようかなって悩んでたとき、航平君にスマホを見られてしまって。その、アカウント画面を」

「それで千代田が『夜空姫ネオン』だと相沢にバレたわけか。素朴な疑問だけど、今まで内緒にしてたのか?」

「配信をしていること自体は、航平君や暦深さんたちも知ってました。ただ……そっちは両親からお墨付きをもらっている真面目な配信の方で。夜空姫ネオンは、リアルでは誰にも明かしてこなかったんです」

「なるほど。で、千代田が本来やりたかったことは夜空姫ネオンの方だった、と」


 福音は頷いた。


「実は、アカウントがバレる前から航平君は夜空姫ネオンのファンだったんです。ただ、何というか……コメントが大胆というか、しばしばなれなれしくなるというか」

「厄介ファンじゃないか。そりゃあ正体を明かしたくないのも頷けるぞ」

「私が夜空姫ネオンだと知って、航平君は暗に私を責めました。そこから彼のコメントはさらにエスカレートして……『自分が夜空姫ネオンを有名にした』という態度をあからさまに取るようになったんです。それが他の視聴者の反感を買って、昨日の配信はプチ炎上してしまいました。これまでなかったことだから、私、配信後もすごく気にしてしまって……」

「それで寝坊してしまったというわけか。おまけに相沢はそれを悪びれている様子も皆無だった、と」

「私、昔から航平君には強く言えなくて。せっかく私が私らしくいられる場所を見つけたと思ったのに……これからどうしていいかわからないんです」


 俯く福音。長い前髪が完全に顔を隠してしまっている。

 湊は腕組みして考える仕草をした後、おもむろに口を開いた。


「ありがとう、千代田」

「え?」

「相談相手に俺を選んでくれたことだ。その様子だと、相沢はもちろん、久路刻や鋭理にも話していないだろう?」


 顔を上げた福音に、湊は真剣な表情で自分の考えを語った。


「プロだったとき、VTuberや他のストリーマーと一緒に仕事をしたことがある。そのときの経験から言うと、身バレしたときには適度な距離を保つことが大事だ」

「適度な距離……」

「千代田の話だと、以前から相沢のマナーには問題がある。この際、千代田の要望をしっかり伝えて、ルール作りをするのが良いと思う。親しき仲にも礼儀あり。線引きをするんだよ」

「それは」


 福音は肩を震わせ、言葉を飲み込んだ。


 VTuberは個人で活躍できる分、降りかかる困難も基本的に自分で解決しなければならない。

 それは、登録者数15万人という人気を得た彼女なら重々承知しているだろう。

 控えめな福音の性格を差し引いてもなお、航平に意見できないのは、何か事情がある――湊はそう考えた。


 福音は本気で悩み、湊に相談している。

 なら自分も本気で応じよう。

 本気には本気で、真摯に向き合う。それが湊のモットーだった。

 湊は一度、『身近な人間から背を向け孤立する』という間違いを犯している。福音に同じ轍を踏ませたくなかった。

 福音の居場所は、守らなければならない。


「よし、千代田。これから時間、取れるか?」

「え?」

「今のメンタルだと何事も上手くいかない。挫折して一気にプロから離脱した俺だから、よくわかる。こういうときは『気晴らし』だ」


 手を差し伸べる。福音は目を丸くして、湊を見上げた。


「良い場所を知ってる。行こう、千代田。お前の大事な居場所を守るための方法、一緒に考えよう」

「……はい。よろしく、お願いします」


 そう言って、福音はおずおずと湊の手を取った。


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