1話 唯一の友人「ホクロの君」を失い、悲劇と絶望を超えてタイムリープした件
『おはようございます。8時になりました。4月5日、本日のおはよう列島ニュースをお届けします』
『2024年度がスタートし、いよいよ各学校でも入学式のシーズンを迎え――』
屋内に設置されたデジタルサイネージから、朝のニュース番組が流れている。
天宮湊は、今初めてその音声に気付いたように辺りを見回した。
天井が高く、駅の構内よりも広く、様々な国籍の人たちがキャリーケースを引きながら歩いている。
ここは空港のロビーだ。
「……あれ。俺はどうしてここに。確か、さっきまでは家の前で」
「何を呆けているんだ、湊。私を見送りに来たんじゃないのか」
印象的なアルトボイスに振り返ると、そこにはひとりの妙齢女性が腰に手を当てて立っていた。
裾がほつれ汚れも目立つシャツに、同じく破れ目が目立つズボン。これから飛行機に乗る人物にしては、みすぼらしい格好である。けれど、彼女は服装を補って余りある存在感を放っていた。
例えるなら、死地をくぐり抜けた歴戦の兵士のような。
「晶師匠……」
「ふむ。おい湊、ちょっと目を見せろ」
ふと、晶が顔を近づけてきた。
野外生活が長いにもかかわらず、彼女は完璧な美貌を誇っていた。日本のアイドルどころか、世界的なハリウッド女優にも引けを取らない容姿だ。顔も、身体つきも。
そんな彼女と半年間一緒に過ごし、美貌に慣れてしまった湊は、女性に対する感覚がかなり狂ってしまっている。
しばらく湊の顔を覗き込んでいた晶は、「なるほど」と微笑んだ。
「顔つきが変わったな。切迫感が出てきた。大きな試練に直面したという顔だ」
「試練……そうだ。師匠、俺は」
「私はもう行かなければならない。この先の生き方は、半年間の山暮らしで教えた。後はお前次第だ、湊」
空港内にアナウンスが響いた。晶は踵を返す。
「いいか。この1年が勝負だぞ。後悔しないために、足掻け。進め。そして掴め。なに、湊ならできるさ。お前は『公爵』だからな」
そう言い残して、彼女は出国していった。
残された湊は、フラフラとロビーの椅子に座った。
頭を整理しなくちゃいけない。
自分の身に、いったい何が起こったのか。
湊はスマホを取り出し、カレンダーを起動した。
今日は2024年4月5日。
「……戻ってる」
呆然と呟き、頭を押さえる。
「俺はさっきまで、2025年4月5日にいたはずだ。1年前に、タイムリープしている……!?」
湊は、体感時間でほんの十数分前のことを思い出した。
◆◆◆
――2025年4月5日。夜。
かつて自宅があった更地の前で、湊は膝を突いた。
「どうして、こんなことに」
呻いても、目を凝らしても、目の前の現実は変わらない。
湊のすぐ隣で、ボロボロのジャージを着た少女が倒れた。慌てて湊は抱き起こす。少女は痩せ細っているために軽かった。汚れと破れが目立つ上衣から、荒れた肌がのぞく。ちらりと見えた胸元にホクロが見えた。
少女は明らかに体調を崩している。それも、かなり深刻だ。今すぐ救急車を呼ぶべきだと湊は思った。
「ねえ」
ホクロの少女がか細い声で言った。
「友達になってくれるって約束……まだ、有効?」
彼女の身体はどんどん冷たくなっていく。息が細くなっていく。真っ白な顔色で「苦しい」と呟いた。
湊はホクロの少女の肩を強く抱きしめ、腹の底から声を出した。やりきれない思いが滲んだ。
「ようやく立ち直ろうと思ったのに。そのきっかけをくれた君が、どうしてこんなことに」
湊は、心の中で叫んだ。
(せっかくできた友達を助けたい。だから。だからもう一度、人生を――!)
◆◆◆
「やり直したいんだ!」
叫びながら、湊は目を覚ました。
荒い息をしながら、胸元を押さえる。心臓が早鐘を打っているのが、はっきりとわかった。
(生きてる。……夢か)
ハッと気付いて辺りを見回す。
乗客たちが怪訝そうに湊を横目で見ていた。
「すみません」と小声で謝ってから、湊は座席から窓を振り返る。
空港からの帰り道の電車内だとわかった。いつの間にか眠っていたらしい。
湊は再びスマホで今日の日付をチェックした。
「2024年4月5日。本当に1年前にタイムリープしてる。あのときの記憶を持ったまま……。夢じゃないんだ」
あのときの記憶――。
湊は心身共にどん底の状態だった。
その先で出会ったのが、同じ境遇の少女。顔は……よく思い出せない。
ただ、胸元のホクロは鮮明に記憶している。
ホクロの少女が絶望のまま冷たくなっていくのを、自分は止められなかった。友達になるという約束も果たせなかった。
けど、タイムリープできた今なら、あの子を悲劇から救えるかもしれない。
「出会ったのは故郷と同じ街。だったら、また会える可能性はある。あの子を見つけて、今度こそ友達になろう。そうすれば、あの悲劇は防げるかもしれない」
人生をやり直したいという願いは、奇跡的に叶えられた。
だったら、このチャンスを逃すわけにはいかない。
顔も名前もわからない少女を、湊は『ホクロの君』と呼ぶことにした。
ホクロの君を助けて、自分自身も立ち直る。
失われた1年間を取り戻す。
そのためなら、何だってやってやる。
「できる。やれる。俺は、公爵と呼ばれた男なんだ」
※※※ 読んで頂いてありがとうございます!! ※※※
ぜひブックマーク登録をお願いします!
もし『面白かった!』『続きが読みたい』と感じていただけたら
画面↓の【☆☆☆☆☆】をタップしていただけると、励みになります!
なにとぞ、よろしくお願い致します!!!




