水中の光景
「ええと… 水族館 ですか」
「はい 是非貴方と 綺麗な魚たちを見てみたいと思って」
ちょっぴり 残念な気持ちになった
大人っぽい彼が デートの申し込みをしてくれた
私も彼のことが気になっていたし 何より 物静かでクールで
その辺りにいる男の人達とは 違った感じがして すごく惹かれた
優しくて頼りがいもあって きっとスマートに エスコートもしてもらえるだろう
そう思って 二つ返事で 彼とのデートを決めた
なのに
(よりによって 水族館だなんて
周りを見ても 小さい子どもたちばっかりじゃないの)
やっぱり どうしてもがっかりしてしまう
彼が一生懸命に 水槽の中にいる 魚たちの説明を
次々にしてくれているけれど ちっとも頭に入ってこない
家族で来ている人たちは たくさん居るけれど
はしゃいでいるのは 子どもたちだ
どこにも 彼のように楽しそうに ニコニコと笑っている大人はいない
(もう 帰りたいな)
そう思いながら ふと 小さな水槽が目に入った
ここまで たくさん大きな水槽はあって
迫力を出すためなのかな なんて考えていた
なんだか 妙に心が惹きつけられる感じがして
小さな水槽に ゆっくりロ 近づいてみた
中には とても小さな魚たちが ひらひらと泳いでいた
そのなかで 一匹
上手く泳げていない魚を見つけて じっと見入ってしまう
「あれ その魚」
彼の声が 近いようで 遠くに聞こえる
何度泳ごうとしても 水圧に負けてしまうのか 全く前に進めていない
他の魚たちは 簡単に軽々と すいすい泳いでいるのに
どうして この魚だけが 泳げないんだろう
変だなと思いつつ その一方で
頑張れと 応援をしている自分もいた
すると 少しずつ 本当に少しずつだけれど
前に 前にと よろよろと進み始めた
しばらくして コツをつかんできたのか
すいー すいいーっと 泳ぐのが 上手になって来た
「この魚 すごく頑張り屋さんですね」
私は自然と 穏やかな気持ちになって 笑みを浮かべていた
「うん そうだね」
私は彼と 楽しくおしゃべりをしながら
もう一度 水族館の中を歩き始めた




