1-6 移住の決断
移住の決断
春日山の麓に広がった弥生集落では、順調に成長し、かなりの人数に膨れ上がっていた。
「あの畑も、もう限界だ」「このままでは土地が足らなくなる」
集落のあちこちでそんな声が上がり、若者たちの間でも移住の気運が高まっていた。
しかし、彼らは春日山の麓以外の土地を知らず、どこへ向かえばよいのか判断できなかった。
王は、悩んだ末、移動するグループの若者に相談していた。彼らは浅間山系や八ヶ岳山系を歩くグループだった。彼は
「妙高を越え、野尻の湖を経て、長野盆地へ向かうべきだ」
と提案したのである。
王は、静かに頷き、決断する。
王は神殿の前に若者たちを集めた。
そこは普段、収穫した米を積み上げる広場である。
そこには、宰相を始め集落をまとめる者たちが並んでいた。
働き盛りの若者、家族を抱えた者、相方を失った者たちが集まり、王の言葉を待った。
「この度、我らは新たな土地へ移住し、集落を築くことにした。我と思う者は、前に出よ」
若者達の顔は真剣だったが、その声に応えるものはいなかった。若者たちの胸には不安が広がっていた。
移住の必要性は理解していても、どこへ行くのかが分からない。
その時、馬を引いた男が前に進み出た。
移動するグループの若者である。
「我々は、妙高を越え、野尻の湖を通り、大きな平野へ向かう」
ざわめきが起きた。
野尻の湖の先に何があるのか、誰も知らない。移動するグループの若者は、続けた。
「心配はいらぬ。我らは海辺だけでなく、縄文の頃から続く道を歩いてきた。野尻の湖の先には、大きな平野が広がっている」
彼の声には迷いがなかった。
「山の道も、谷の道も知っている。縄文の頃から続く道を、我らはいまも歩いている」
沈黙が落ちた。
王が口を開いた。
「ここを離れるのは不安だろう。しかし、不安を解消するには、移住しかない。以前王族が行ってきた移住で、新たな土地に集落を広げるのだ。
彼らが示す新たな大地は、田を開くにふさわしい土地だと判断した。勇気を持って進んでほしい」
その言葉には、王としての切実な願いが込められていた。
若者たちの胸に、かすかな希望が灯った。
移動するグループの若者が、続けた。
「妙高を超えるが、四日の行程だ。馬には米を積んでいる。食べ物の心配はいらない。俺たちだけなら二日で行ける道だ」
その言葉に押されるように、若者たちは一斉に声を上げ、前へと踏み出した。




