3-6 戸隠の巫女
戸隠の巫女
戸隠の巫女は、静かに応えた。
「浅間山の婆様はお元気ですか?
移動するグループから、直江津王国の話は聞いていたので、春日山の巫女が、弥生集落を作っていることも承知している。
佐久の集落の巫女とやら、よう参った。浅間山の噴火は、さぞ恐ろしかったろう。この日が来るのを待っておったわい」
戸隠の巫女は、一気に話しだした。その姿に圧倒され、佐久の巫女は、畏まってしまった。
移動するグループが、代わりに答える。
「浅間山の婆様が、佐久の集落は、平地の集落で、森からも遠い、何もかも、形だけで、何も分からなくなってるんじゃないか。と言っていたぞ」
「佐久の巫女ね。平地では、何も掴めまい、春日山でも、大岩を始め、湧泉を使った祈りもあったろうに、、、」
「私はどうすればよいのでしょうか?」
佐久の巫女がやっと声を出した。
戸隠の巫女が、急に優しい顔をして、応えた
「よい、よい、ここでしばらくは暮らせば、つかめるものもあろう。」
「はい、よろしくお願いいたします。巫女様。」
巫女は、構わず、侍女を誘い、声を上げて歌い出した。
すると、侍女たちが、面を被り、ドンドンと足を鳴らし、リズムをとった。戸隠の巫女は、手を広げ天を仰いだ。
佐久の巫女は、何事かと思ったが、静かに見ていた。
こうして、冬が近づく、戸隠の山には、強い海からの風が吹いていた。
佐久の巫女は、見慣れない縄文の暮らしを、1つ1つ、教わりながら実直に過ごすのであった。
やがて、山はすっかり、雪深くなり、すっかり動けなくなった。
佐久の集落では、すっかり冬になると、苗を使った足袋や雨傘など、冬の手仕事をするのであった。
来たる春に備えて、懸命に準備をするのは、不安を押し込もうとしていたのであった。
そして、春が来た。
灰で覆われた田んぼには、いつもより、多くの力が必要であった。しかし、水を入れると、かき混ぜることに余分な力が必要だったのである。皆は、負けるもんかと、頑張るのであった。
戸隠では、佐久の巫女は、日々の生活の忙しさに懸命になって動いていたが、ある晴れた日。戸隠の巫女が外に出て歩こうと誘うのであった。
まず、大岩に花を添え、語る
「大岩は、静かに語りかけるのです。いま、ある事を素直に告げるのが大事です。心の中のありのままを告げるのです。すると、答えが返ってきます」
言ってる事は理解できる。それでもついて歩いていくしかなかった。
戸隠の巫女は、更に山奥の岩陰の向こうに谷があり、その先に小さく動くものを見つけ、佐久の巫女に答えます。
「あれは、熊の子どもが生まれたんですね。彼らは我々の暮らしには関わらない事が大事なんです。静かな力を我らに示してくれます」
戸隠の巫女は、大きな木を抱き、今度は狼の話をし、戸隠に隠れた自然のあり様を次々に語って聞かせるのであった。
佐久の巫女は、何度も同じ事を繰り返す、戸隠の巫女の話が、自然に体のなかに入っていくのを感じていた。
暑い夏が、佐久の集落に訪れ、浅間山からの風が強く、緑の穂を揺らしていた。




