第17話:陰謀の神だからこそ、「疑心暗鬼」には勝てない
いつも読んでいただきありがとうございます。
まだまだ、レンのピンチが続きます。
【場所:深淵の最奥部】
『……最後の謎、だと?』
神エニグマは、泥の上に転がるレンを見下ろした。
一度は振り上げた触手を止めたものの、その目にはまだ殺意と、それ以上の「侮蔑」が宿っていた。
『ハッ。馬鹿馬鹿しい』
エニグマが鼻で笑う。
『どうせ「命乞いのための嘘」だろう。人間が土壇場で吐く言葉など、聞く価値もない』
『貴様が何を隠していようが、ここで消滅させれば関係ないことだ』
エニグマは再び触手を振り上げた。
やはり、通用しないか。
サラリーマンが「あっ!」と声を上げる。
だが、レンは動じずに、冷笑を浮かべたまま呟いた。
「……へぇ。いいのか? 俺を消して」
「俺のスマホ……あんな『旧式のダミー』を壊したくらいで、勝った気になってていいのかよ?」
ピタリ。
エニグマの触手が、再び空中で止まった。
『……何?』
『ダミー……だと?』
「当たり前だろ。地球の神様がくれたチートアイテムだぞ? そんな簡単に壊れるわけないじゃん」
レンは口についた血を舐め取った。
「本命の『メイン端末』は、とっくの昔に……お前の世界の『どこか』に隠してある」
『……ッ!』
「そして、その端末は今も生きている。……俺の心拍数がゼロになった瞬間、『あるプログラム』が作動するようにセットしてな」
レンのハッタリ。
完全なる大嘘だ。スマホはあれ一台しかなかったし、予備などない。
だが、「陰謀の神」にとって、この言葉は猛毒だった。
『プログラム……? 何を仕掛けた?』
「さあな? お前の世界のデータを全削除するウイルスか……あるいは、他の神々に『お前の恥ずかしい秘密』を一斉送信するシステムか……」
レンはニヤリと笑った。
「殺せよ。殺せばわかるぜ?」
沈黙。
エニグマの無数の目玉が、ギョロギョロと激しく動き始めた。
(嘘だ。間違いなく嘘だ)
(だが……もし本当だったら?)
(あのスマホは自爆した。確かに「脆すぎた」気もする。あれが囮だったとしたら?)
(こいつはトリックスターだ。最初から「死ぬこと」をトリガーにした罠を張っていたら?)
(私の世界が消える? 私の秘密が拡散される? ……そんなリスク、許容できるか?)
疑心暗鬼。
自らが人間に与え続けてきたその感情が、今、神自身を蝕み始めた。
『……汚い男だ』
エニグマの声が低く響く。
『自らの命すら、私を脅すための人質にするとはな』
「お前が教えてくれたんだろ? 『疑うこと』が最強の防衛策だってな」
エニグマは触手を下ろした。
殺せない。
「万が一」の可能性が0.1%でもある限り、陰謀の神はこのリスクあるボタン(レンの死)を押すことができない。
『いいだろう』
エニグマはレンを泥で拘束し直し、空中に吊り上げた。
『殺すのは後回しだ。……その口を割らせて、「メイン端末」の隠し場所を吐かせるのが先決だな』
『拷問だ。肉体的苦痛で、嘘か真実かを見極めてやる』
エニグマは泥を鋭い針に変え、レンの体に突きつけた。
『言え。端末はどこだ? 3秒以内に答えなければ、指を一本ずつ切り落とす』
拷問の開始。
だが、レンにとっては「延命」成功だ。
殺されさえしなければ、時間は稼げる。
「……ハッ。拷問かよ。芸がねぇな」
レンは脂汗を流しながら、頭をフル回転させた。
(よし、食いついた。……だが、隠し場所なんて存在しねぇ)
(適当な場所を言えば、調べられて即バレる。……どうする? どこを指定すれば、一番時間が稼げる?)
レンは、エニグマの目を真っ直ぐに見て言った。
「……わかったよ。言う」
「端末を隠したのは……『お前の中』だ」
『は?』
「俺たちが最初に会った時……お前が俺たちを飲み込んだろ? その時に混ぜておいたんだよ」
「灯台下暗し。……お前の体内の、数億あるデータの海の中だ」
『貴様ァァァッ!!』
エニグマは自分自身を探らなければならなくなった。
自分の中にある異物を見つける?
それは、自分の細胞を一つ一つ顕微鏡で見るような、気の遠くなる作業だ。
『……面白い。やってやろうじゃないか』
『私の検索能力から逃げられると思うなよ……!』
神エニグマは、レンを殺すことを一時的に忘れ、「自分の中に存在しないスマホを探す」という、終わりのない作業(虚無)に没頭し始めた。
レンは吊るされたまま、深く息を吐いた。
(……セーフ。これで数時間は稼げるか……?)
(でも、バレるのは時間の問題だ。……早く来てくれよ、『次の手』……!)
レンが待っているのは、ただの奇跡ではない。
彼が最初にこの世界に来た時、こっそりと地球に放っていた「ある布石」の発動だった。
(第17話・完)
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