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三題噺もどき4

雨の痕

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくにじゅうよん。

 




 ぬるい風が頬を撫でる。

 もう少し、春風のように軽やかに撫でて欲しいものだ……。

 ただでさえ気温も高くて参っているのに、風までもこんなにぬるいと気分はいいモノではない。

「……、」

 こうも暑い日々が続くと、冬の雪が恋しくなる。あれを首や手に当てて涼を取れば、この暑さもしのげなくはない気がする。

 あの冷たい空気が吹いてくれれば、かいた汗も冷えて気持ちよく散歩をできそうだ。

 ……そんなことを思うのは、こんなにも暑いからであって、実際に冬が来れば夏が恋しくなるのだろうけど。

「……」

 先週の大雨が嘘のようになりを潜め、頭上には端の欠けた月が浮かんでいる。

 所々雲はあるものの、久しぶりの晴れ間と言っても過言ではない。

 昼間はどうだったかは知らないが。

「……」

 まぁ、とは言え。

 あの大雨がもたらした災害は、未だ残っているようだ。

 通常通りに生活ができていない地域も未だにあるらしい。私の家はありがたいことに、大した影響もなく、何事もなく生活できている。

 あぁ、マンションホール辺りは少々浸水したらしいが、それもたいしたことはなかったそうだ。管理人がかなり警戒してしっかりと対策をしていたのだろう。ありがたいことだ。

「……」

 いつもより騒がしかったこの住宅街も、少しずつではあるが落ち着きを取り戻しつつある。今週に入ってからは、お盆というのもあり人の気配が少ない。

 そのせいもあって、いつも以上に静かに感じる。先週はあんなに騒がしかったのに。

「……」

 まぁ、だから。

 あの公園にも人が来なくなっているだろうと思って。

 また今日もあの公園のブランコにでも会いに行こうかと散歩に出たのだ。

「……」

 けど。

「……何でこんな所にいる?」

 マンションを出て少し歩いたあたりで。

 ここに居るべきではない影というかなんというか……。

「……!!」

 本来墓場に居るはずの、あの少年が。

 どこか所在なさげにうろついていたのだ。

 こちらに気づき、駆け寄ってきた少年を抱きとめながらも、頭の中は疑問で持ち切りである。

「……何があった?」

「??」

 まぁ、こんな子供に聞いたところで何も分からないのだろうけど。

 眼には涙のようなものが浮かんでいる。かなり不安だったのだろう。起きたら突然知らない町に1人取り残されていたようなものだ。しかし、いつからここに居たのだろう。

 あの墓場からここまでは少し距離がある。それにこの子はあそこに縛られていたはずだ。

 それとも実はこうして動けたのだろうか……。

 それにしては迷っていたようだったが。

「……帰り道が分からないのか?」

「!………!」

 頭が取れるのではないかと心配するほどの勢いで首を縦に振る。

 先週の雨でここまで流されでもしたのだろうか……その割には気配なんて全くしていなかったが。もしや、私が近づいたから起きたのか?

 ここ何日かは私も散歩には出ていないから、何とも言えない。

「……まぁ、とりあえず、墓場に行くか」

「――!!」

 ぴょんぴょんと跳ねながら嬉しそうに頷く。

 たまには同行者の居る散歩も悪くはない。





「おかえりなさい」

「あぁ、ただいま」

「外はどうでしたか」

「何もなかったよ」

「……その子は?」

「は?」









 お題:春風・ブランコ・雪


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