森の欲しがり妹
「クリスチー、パーティーをするわ。森に行って木イチゴを取ってきなさい」
「お義母様、今は冬です」
「あら、言う事を聞けないの?なら、出て行きなさい」
「「プゥ~クスクスクスクス~~」」」
こんなの絶対に不可能だわ。つまり、出て行けと言う事かしら。
私は古いケープを身にまとい冬の森に行った。
雪がちらほら積もっているわ。
お父様、お母様が生きていたときに買ってもらった服は義姉様たちに取り上げられたわ。
寒い。暗くなってきたわ。
怖い。
熊は冬眠しているはずだわ。
あ、灯りがあるわ。
私は危険を顧みずに灯りの方向に行った。
小屋があるわ。
ドンドン!とドアを叩き入れてくれるように懇願したわ。
「開けて下さい。凍えそうです」
ドアが開いたわ。
「誰なの~」
幼女だわ。6歳ぐらいの子、ヒラヒラの服を着ているわ。
「クリスチーと申します。父は再婚後にすぐに亡くなりました。義母は働いておりません。今はただのクリスチーです」
中に入れと言われたわ。
暖炉の火が暖かい。
「クリスチーは何で森に来たの~」
「はい、実は・・・」
理由を話したわ。
そしたら、
「その籠に入っているお菓子欲しいの~欲し~の、欲し~の」
「はい・・でもお嬢様のお口に合うとは思えませんわ。焼き菓子と言うよりもパンの出来損ないみたいな物で・・・」
「暖炉の対価なの~」
私が小麦で作った焼き菓子よ。今はこんな物しか食べられないわ。
手で半分に折り。渡したわ。
「スープ温めて欲し~の」
「はい」
「クリスチーも飲むの~」
「はい」
暖かい物を飲んだせいか、ぐっすり寝落ちしてしまった。
しばらくして、目が覚めたわ。
大変、もしかしてあの子は盗賊の子かもしれないわ。
慌てて衣服を確認するが乱暴された形跡はない。
「あら・・・」
籠の中にイチゴが詰まっていたわ。
私は無人になった家を出て、籠をお義母様に渡したわ。
「えっ!」
「「何で」」
驚くお母様と義姉たち。貴方たちが命じたのでしょう。
「どこに行っていたの」
「森ですわ」
それからも無理難題を言われたわ。
そのたびに森の小屋に行く。
すると幼女は決まって私のお菓子を欲しがる。
何も無いときは掃除を言いつけるわ。
家に戻ると、義母、義姉たちは目の色を変えるわ。
「瓜ですわ・・・めろんという種類らしいですけど」
「寄越しなさい!」
「キャア!」
義母は籠を乱暴に奪い取る。
義姉たちはむさぼるようになったわ。
「甘い!」
「こんな美味しい物、もっと欲しいわ」
春になり。小屋には幼女がいなくなったわ。
あの子、どこに行ったのかしら。
あら、ガラスの家・・・
気がつかなかったが、小屋の近くにガラスで出来た小屋があったわ。
中は空っぽ。土は掘り返されている。テーブルもあるわね。
どうしよう。家に戻って何もなかったら、折檻されるわ。
家に戻ったら、馬車が横付けされていたわ。
「聞け!伯爵令嬢メアリー様のご命令だ。
この領地の娘は全員、焼き菓子を持ってくること。『自分で作った焼き菓子限定な』とのことだ!優秀者には褒美を与える」
「まあ、分かりましたわ。うちには才媛が二人いますから」
「この娘は何だ?」
「はい、出来損ないで困っています。面倒を見ている連れ子ですわ」
「彼女も作って持って来させること!」
ヒソヒソ噂話が聞こえる。
この地の領主様の末っ子メアリー様は我が儘娘だそうだ。
いつも、欲しがっている強欲の権化のような子だ。
怖いわ。粗相があったのなら・・・
義姉たちは、着飾り当然のように菓子職人を呼ぶ。
お父様が残してくれた財産なのに・・・
私はこっそり竈を使い焼き菓子を作ったわ。砂糖は、森で見つけた植物の根を乾燥させたものを使うわ。
徒歩で向かい何とか、深夜、領主屋敷までついたわ。
「大杉村のクリスチーでございますわ」
「入れ」
メイドに案内された。部屋には・・あの子がいたわ。森の幼女がメアリー様?
「あの子・・・」
あの子が、テーブルの真ん中に座っていたわ。
伯爵夫婦と、子息様たちと、お姉様かしら令嬢もいた。
皆、あの子の側にいる。まるであの子が中心の人物のようだ。
沢山の豪華な焼き菓子が机の上に並べられているわ。
「メアリー、どう?お気に入りの焼き菓子あった?」
「お兄様、ないの~」
「お、あの娘殿が最後のようだ。こっちに来てくれ」
残っている村娘、義姉たちは幼女の動向を見守っている。
「どうぞ・・・粗末なものですが・・・」
「クリスチーなの~」
パクパクとジュース?この季節にはない果物の汁を飲んでいるわ。
「これなの~!クリスチーが優勝なの~」
「「「「何ですって!」」」」
義母と義姉たちが抗議をするわ。
「私達はこの地で一番の焼き菓子を持ってきたのですわ」
「そうですわ。私達が一番ですわ。伯爵令息様と結婚出来るから頑張りましたのよ!」
「そうです。自慢の娘達です」
すると、幼女は。
「メアリーが気に入ったお菓子が優勝なの~。これは非常食になるの~」
「さあ、クリスチー様、優勝ですよ。願いを言って下さい」
令息様に促されたわ。どうしようかしら・・・・
メアリー様はジィと私の目を見る。
「欲しがるの~、欲しがるの~、勝つまで欲しがるの~」
とつぶやいたわ。
私は・・・
☆☆☆
「領主裁判、判決である。クリスチーに財産を返すこと!」
「「「そんなー」」」
「おかしいですわ。あれは・・・」
「フウ、相続権は、クリスチーにある。父は義母と婚姻はしていない。届け出がでていない。子育て経験が豊富なメイドとして雇ったのだ。その直後、流行病で亡くなったと調査の結果分かったぞ!」
私の願いは、お母様が協力してお父様が作ってくれた財産を浪費して欲しくない。義母、お姉様たちに財産管理人をつけてくれとお願いしたわ。
そしたら、伯爵様がおかしいと調査をしてくれたわ。
裁判中、私は領主様のお屋敷に引き取られた。
調べているうちに
とんでもない事実が分かったわ。
お母様が亡くなり。いつも家を空けるお父様は子育てが出来るメイドを雇ったのが義母と名乗る女だったわ。
そう言えば、その時、私は7歳、言われるまま、義母だと思ったのよね・・・
「判決、領主が指定する作業所に入り。給金から今まで浪費したクリスチーの相続財産を返す事。給金は差し引いて渡す」
「知らなかったのですわ」
「そんな。私は止めましたわ。お母様とお姉様がこんなガキ騙せると・・・」
「いいえ、娘達が勝手にやりました」
あの女の一家は喧嘩を始めたわ。
私のお菓子は飢饉用の非常食として採用されたわ。
伯爵一家は、末っ子はギフト持ちとして大事にしている。
あのガラスの小屋は、冬でも高級果物を作れる温室というものらしい。
メアリー様の発案で作ったわ。不思議な異世界の知識があるらしい。
そして、事実、冬の間でも高級フルーツが作れると実証されたわ。
あの子は、あちこちから作物の種を取り寄せる。
この地を高級果物の産地として売り出すらしい。
私も協力しなければ・・・
「あの、父は商人でした。王都に父の知り合いはおります」
「分かったの~、ケビンお兄様にお願いするの~、見本を持って行くの~」
「分かったよ。メアリー、さあ、ご令嬢、王都に行くためのドレスを新調しましょう」
「はい、ケビン様」
近々、3番目の令息様と婚約し、この地で働く予定だわ・・・
森であった不思議な子、メアリー様に感謝しかない。
もし、焼き菓子を欲しがらなかったらと思うと・・・今の私はないだろう。
最後までお読み頂き有難うございました。