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第9話 見回りといざこざ

 スミスクラウンの展示会の招待状を受け取って少しした頃、街中の治安維持の見回りを任されていたエリオとシルヴィは、午前中の街並みの中で事件がないか監視していた。


 それと同時に、街中に並ぶ衣類・装飾品・そして鎧や武器を見て、その中に混じるスミスクラウンの製品に図らずとも目が行き、特にシルヴィは自分の小市民感に悩まされつつも、受け取った招待状の封蝋と同じ刻印がないかを確認してしまう。


「シルヴィ、目が泳いでいるが?」

「ああごめんなさい。私ってば駄目ね、一度スミスクラウンの刻印を覚えると、ついつい探してしまうわ」


 町中のスミスクラウン製品を探しつつ警戒を行うシルヴィ。エリオも隣に帯同しており、仕事そのものは問題なく行われている。


「けどスミスクラウンって、エリュ・トリではかなり高級な品のイメージがあるけど、案外ピンキリなのね」

「どういう意味だ?」

「だって、ほら……」


 シルヴィが、一つの露天商を指さすと、そこには『平行に並ぶ2つの鎚と、蝋燭の炎』の刻印のある装備が、いくつも並んでいた。


『平行な二つの鎚と蝋燭の炎』はスミスクラウン商会の職人の製造品を示している。その中で「平行な鎚」は商会に名を連ねる職人の製品であり、本来のスミスクラウンの作品ではないとされている。


 しかし刻印が押された以上、それらは信頼できるスミスクラウンの製品として世に流通する。だが並んでいた防具や装甲は、それらは良質で有名なスミスクラウンのイメージとはかけ離れた、駆け出しの冒険者用のシンプルな作品だった。


「なんか、こう……わかる?すごい逸品って言う印象がないと言うか」

「確かに、スカーのダガーのような、見るものを圧倒する迫力は薄いな」


 二人が露店の品に目線をくれていると、その露店の主人が声をかけてきた。


「おや冒険者のおふたりさん。スミスクラウンにずいぶん造詣があみるたいだね。あんたらが言う通り、こいつはらスミスクラウンであってスミスクラウンじゃないんだよ」

「それってどういう意味ですか?」


 露天商の言葉に、シルヴィは疑問を投げかける。


「こいつらは贋作だよ。スミスクラウンは初心者用こそあれ、品質はに絶対の自信を持ってる。だがそんなスミスクラウンは贋作は多くてね。これらはいわるゆ模造品ってやつだ。材料については確かにスミスクラウンと同じがだ、その質と完成は……まぁ見ての通りさ」

「贋作、模造品ですか」

「スミスクラウン程の有名な製品なら、確かにおかしくもない話だな」


 露天商はさらに話を続けて、去年頃から模造品が増えてきて、それを安く買い取って売る装備屋が増えたらしく、店を構える装備店では扱えないので、それらは露天商に流れていき、彼のような者たちが手頃なスミスクラウンの偽物として取引している。


 そしてエリュ・トリでは、これら模造品を露店で売ることについて規制はなく、安物で冒険に出て大怪我をするものも急増しているとの事だった。


「当のスミスクラウン商会は、それつにいて何も動きがないから、実質黙認の状態さ」

「それは、何か対策を講じないといけませんね」

「冒険者に見せても出来る事と言えば、知識を得ることと周知をすることだけだがな」




 結局、二人は露天商と別れて、再び警備の仕事に戻った。しかし何かを考える時間もないまま、昼を前にもうすぐ仕事の交代をしようかという時に、二人は屋台市方面から喧嘩の声を耳にした。


「おい! 俺が先に声かけただろうがよぉ!」

「ふざけんな、そのせいでこの子怖がってたじゃねえか! なぁ嬢ちゃん? こんな物騒な奴よりこっちに……」

「てめぇ何サラッと連れて行こうとしてんだよ!」


 どうやら女の取り合いの様子を感じたエリオとシルヴィは、やれやれと面倒くさそうな顔をしつつも、仲裁の仕事と思い、その喧騒の中に割って入った。


「あのー、そう言うめんどくさいナンパ話は余所で……あれ?」


 シルヴィが喧嘩中の男二人に割って入ろうとした時、その間で板挟みになって困った顔を浮かべているマリヤンに気がついた。


「あなた、この間の……」


「あぁ、お久しぶりです。実はこんな事になってしまって」


 事情は見ての通り。という表情でシルヴィに助けを求めるマリヤン。そしてその様子を見ていたエリオもまた彼女を見つける。


「せっかくの旅行で、こんな思い出を作るのは我々としても申し訳ない」


 しかし、見知った者としてエリオが挨拶をしたことを、男たちは良くは思っていなかった。すぐに男たちは、マリヤンとエリオを遮る様に立ちふさがった。


「お? なんだお前? 兄ちゃんもこの子を狙うってのか?」

「なんだ? そんな仲良しの女がいながら他の女に手を出すなんて、見た目細いのにとんだ遊び人だな」


 男二人が声をそろえてエリアに向かってやじを飛ばす。しかしそんな軽い言葉など意にも介さず、エリオはマリヤンをこの場から退散させるように促す。


「せっかくの旅行が台無しにならないように、石炉亭に店を変えてはどうだ? それならこんなならず者に絡まれる心配もないからな」

「は、はぁ……」


 自分たちの事など歯牙にもかけないと言ったエリオの様子に、男たちは我慢の限界に達した。男の一人が、背中を向けたエリオの肩にグッと力を込めてエリオを引き留める。


「おい兄ちゃん、いま俺たちをならずものって呼んだか? 俺たちゃ塩商の大ボスの【ストラヴィス家】の労働者だ。俺たちがいなきゃこの国だってこんなにこんなに豊かになんかならねえんだよ!」


 ストラヴィス家……このエリュ・トリの経済を支える岩塩の取引において、ヴェスパー家と並ぶ二つの名家の内の一つ。採掘を主業としており、その為に多くの労働者を雇ったことで、取引と経済に循環をもたらした。


 しかし、下請けの人間を選ばない故に、その傘下に入るのは、必ずしも良質な人物とは言えないという話もある複雑な商家である。


「あーなるほどね、それなら私たちが気兼ねする必要はないわね」

「あ? なんだ女、お前俺たちとやるってのか? そこの兄ちゃんもいけ好かねぇし、こうなったら鉱山の男の実力ってものを……えっ」


 男が意気揚々と二人に食ってかかろうとした時、シルヴィは鋭い動きでその手首をがっちりと捉え、そのままねじるようにして腕から手首にかけてを、人間の関節がおおよそ曲がり難い方向へと容赦なくひねり上げた。


「だぁぁぁぁ! いたたたた! 折れる! 折れるだろうが!」

「あなたたちが採掘者だって言うんなら、私たちの事は知らなくて当然よね。エリュ・トリ冒険者ギルド、シルヴィ・レース・シャウラ。エリュ・トリの治安維持のためにあなた達を拘束します!」


 シルヴィはそう名乗り、ひねられた手の痛みに立つことさえできなくなった男をそのまま組み伏した。


 そしてすぐさま「エリオ!」と彼に声を掛けるが、当のエリオの方は、既に男が両手を上げて降参の意思を示していた。


 そして男の足元からは冷気の白い霧が立ち込めており、両足の膝の下までを氷に覆われて完全に移動を阻止されてしまっていた。

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