第41話 後日談:罪は償われ、罰は洗い流される
アルカナによる事件から、一か月が過ぎた。岩石資源の豊富さは、すなわち石の町の復興の早さを示しており、傷ついた町々は瞬く間に元に戻っていった。
事件を起こした張本人であるミロとマリは、冒険者ギルドの談義により罪を判断し、この一か月、処罰牢に拘留されていた。そして拘留が終わった二人は、そのまま冒険者ギルドで申請を出して、これから長い時間をかけて自分たちの罪を償う契約をした。
「そ、それじゃあおチビちゃ……いやぁ、ミロくんとマリちゃんには、えっと……罪を償ってもらいますねー、お元気でー」
「アーベイ君。このお二人はエリュ・トリの立派な市民になるのです。我々とも関係のある仕事なのですから、もっと敬意をもって接しなさい」
「……はい」
――
そして爆炎で厨房が大惨事になっていた石炉亭も、この一か月の間に急ピッチで作業を進めて、ようやく使えるようになった。
「おっしゃ! やってやろうじゃないの! コックども! ストラ! キュロ! 開店の準備だよ!」
「「「はいっ!!」」」
マグリットの宣言で、石炉亭は完全復活して、周りに集まっていた冒険者や市民たちから惜しみない賞賛の拍手が送られた。
――
「はぁぁっ!!」
三等級狩猟区、パーティ二人を置いていく勢いで先陣を切って、オーデクスが火原鹿の討伐に乗り出す。逃げ出す鹿を追う不安定な地面に、土のエナジーを流し込んで二本の土の道を作りながら突撃する。
「弓の兄ちゃん! 先回りの道作ったから先に回っててくれ! あと水使いの姉ちゃん。オレの通った道を使って、鹿の足元をぬかるみにできるか?」
オーデクスは後ろを向いて、二人の能力を見込んで鹿を追い詰めるアイデアを提案する。オーデクスの立案で二人の冒険者も速やかに動き、三人一組で一頭の鹿を追い詰めにかかる。
――
「レギーナ。元気になったからってあまり急ぐと……」
出血多量と各所のケガを受けていたレギーナだが、半月ほど病院で静養して、残りの半月で身体の機能を回復させる訓練をこなして、すっかり冒険者としての活動ができるまでになっていた。そして現在、そんなレギーナの元気に振り回されているのは、エリオだった。
「これが黙っていられますか! シルヴィはいないしスカーもどこかをほっつき歩いてる……こうなったら、エリオを振り回す事しか出来ないんですもの」
「できれば振り回してほしくはないんだが」
前よりもあか抜けて、より人当たりがよくなったレギーナが、エリオの手を掴む。エリオはそんな彼女の天真爛漫さに困りつつも「やれやれ」と元気になった仲間への笑顔を向けて、レギーナに引っ張られて町中を歩いて行った。
――
「団長の言う通り、派手に暴れてやったぜ?」
「そうだな。素晴らしい花火だったよ」
カラン……!
冒険者ギルドのロビー、団長とジーンはそんな会話を交わしてクラフトビアーのビンで乾杯を交わした。団長と英雄、そんな存在感のある二人の姿に、行き交う冒険者たちは恐れ多くもそれを憧れのまなざしで見ていた。そして、スカート姿の冒険者装備に身を包んだ女性が、二人の前におずおずと現れて、自分の剣の鞘を突き出した。
「あっ、あのっ! ジーン……さま、先の戦い、とっ、とってもかっこよかったです!よければわたしの鞘に……さ、サインをっ!」
「あぁ? いきなりサインとは有名になったもんだな。うしっ! そんじゃあ焼き印になるけどサインしてやろう。そんで嬢ちゃん、今夜とか石炉亭に寄ったりするかい? もし時間があれば……」
「ジーン。みだりに人をナンパするんなら、お前も風紀違反でひっ捕らえるぞ?」
――
ギルドから離れて、狩猟区との狭間に新しく出来た施設がある。“冒険者修練場”そこは来たるサービス開始のために着々と作業が進んでいた。
「ほらほら、早く準備しないと、双子ちゃん待たせちゃうでしょー」
シルヴィが現場の冒険者たちを指揮して、その場所を作っていく。それは、ミロとマリの贖罪の一つ「町の発展に貢献する事」に関するものだった。
「全く、計画を立てたスカーは何処に行ったのやら……まさか、マリちゃんの事剥いたりしてないわよね?」
一抹の不安がよぎる中、この施設の要となる二人が遊びに来る。
「シルヴィお姉ちゃん!」
「遊びにきたぜー! すっごい立派な場所だ!」
「そうよ。ここでアルカナを使って、自分と鍛錬をする事が出来る。範囲起動すれば、複数人でもできるのよね?」
「うん! 五人ぐらいはだいじょうぶ、だよ!」
「何なら千人とか来たってへっちゃらだ!」
「ミロ~……」
ミロの大口で、マリが困惑する。そんな光景も、これから少しずつ町の風物詩に変わっていくのだろう。
――
施設の様子を確認できたミロとマリが修練場を後にして町を歩いていると。そんな二人に遠くから声をかける赤髪の女がいた。
「マリちゃ~~~ん……」
「わぁっ!?」
「げっ! クロス・リッパー!!」
「いやぁ、すっかり元気になっちゃって。あたしも安心したわ。これで二人も立派なエリュ・トリの仲間ね。へへ……」
背を向けて逃げようとする素振りを見せたミロ相手に、謎の瞬足で距離を詰めて二人に労いの言葉と含みを持たせた笑いを見せるスカー。しかし、そんな怪しげな笑みも束の間、スカーは襟を正して二人に尋ねた。
「それはさておき、前に拘留中の話の中で、もうすぐ二人の誕生日が来るって言ってたでしょ? それで……はい、これ!」
スカーはそう言って、二人に小さな箱を手渡す。箱をしげしげと見つめるミロとマリ。「開けていい?」というマリの言葉にどうぞとばかりに手を差しだすスカーの反応で、二人は恭しくその箱を開けて中身を確認した。
中には、キラキラしたブレスレットとペンダントが入っていた。ミロがもらったのは、レザーのブレスレット。その表面には焼き込みによる天秤模様が描かれており、身に付けるとその模様は薄っすらと金色に変化する。
マリには青い雫を模した鉱石のペンダント。涙型の小さなペンダントの内部に天秤の模様が封じ込められており、マリの手の中でその天秤は穏やかな水色の光を放っていた。
喜び急いで二人はそのプレゼントを身に着けて、その腕と首元に、輝きを身につけて嬉しそうな顔を浮かべた。
「これ……不思議な感じ」
「なんだか、付け心地がいい……」
「そうでしょう。この一か月の間にね、あたしがお世話になってるスミスクラウン商会に手紙を寄越したのよ。それで『そこで作れる最高の品を作ってちょうだい』って頼み込んだら、それが届いたのよ」
「そんな高価なもの……本当にいいのか!?」
「高いもの付けるのはじめてで、なんだかきんちょうする……」
「心配しないで。最高の品であって一番高い商品ではないし、その装飾品はきっとあなた達を助けてくれると思うから」
「?」「?」
スカーの意味深な言葉に首を傾げる二人。しかしそんなことを気にするよりも早く、スカーの目の色が変わった。
「そ・れ・に……そうやってアクセサリーを付けていれば、あたしとしてもマリちゃんを剥く口実が出来るし」
「ひえっ!」
「おい! クロス・リッパー! マリに手を出すんじゃない!」
そんなミロの忠告も聞かず、スカーは風のようにマリの身体を通り抜けて、その背中で自分があげたはずのペンダントを首から取り上げていた。
「あっ! ペンダントが!」
泣きかけの目で、後ろに通り抜けたスカーの手元を見るマリ。一方でスカーは自分が渡したはずのペンダントをくるくると回しながら、したり顔で言葉を返した。
「へへっ、目で追いきれない様じゃまだまだね。あたしもあなたたちの成長を楽しみにしてるから、変な運命に惑わされちゃだめよ? なんせあなた達はここでは…」
ただの双子なんだから――
―――ただの双子、じゃないか
「あっ……!」
「っ……!」
スカーのその言葉に、ミロとマリはあの日のリオンを思い出す。そしてにっこりと笑って、軽く駆け出していくスカーを追いかけた。




