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第40話 幕間:そして双子はエリュ・トリに


ダンッ!!


「っ!?」「ひっ…!?」


 その時、推測を並べ立てて声のトーンが落ちていったリオンが、突然石のテーブルにその拳を叩きつけた。あまりに突然の事に二人はビクッ!と跳ねて、リオンの顔色を窺った。


「……優しいか? そんな訳ないだろ。ただ双子って言うだけで、このタロキアムで9年もあざ笑われて生きてくなんて、あっていい訳がない。そして、何も知らない子どもを、自分たちの救済の道具にするために死ぬ親だって、居ていいわけがない。こいつらは子どもだ。忌み子でも凶兆でも災禍でもない……こいつらは、ただの双子じゃないか」


 顔を上げたリオンの悲痛な面持ち。ミロとマリは、その言葉に、無意識に涙を流していた。占星術師が国を担うタロキアムにおいて、これほどまでに風習に捕らわれない考え方で二人と会話をする人間はいない。


「だからお前たち。起きてしまった事は元には戻せないが、それはお前たちが双子だったからではない。お前たちは強大なアルカナを使えて、その制御を誤った。そこを決して間違えるな。誰がお前たちを罵ったとしても、だ」


 そんなリオンの力強い言葉が、ミロとマリの頬を、静かに涙で濡らした。




「お前たちのアルカナは、長い儀式を行う事で安定して制御できる。17日式という儀式で起動すれば、お前たちの天蓋はお前たちの意思で自由に制御できるだろう」


「そして、双子の短命の言い伝えだが、俺から見れば眉唾な風習だ。アルカナを持った例は確かに存在していないが、それ以上にタロキアムでの双子の存在が謎めいているんだ」


「お前たちが本当に短命の運命を持つのかを試すのなら、このアルカナとそれを支える原動力であるエナジーを辿れ。一つの大国を挟んだ向こう側の【世界樹の都】そこにはアルカナの起源となるエナジーに関する知識があるはずだ」


 それからリオンは、二人のいくつかの疑問に答えを提示して、二人に顔を隠せるローブを差し出した。二人がどうにかして、自分の人生を全うできるようにという祈りを込めて。


「俺はお前たちのアルカナの被害を復興しようと思う。この国から出るのなら、残念だがついていく事は出来ない。だがお前たちは六商ギルドに会ったんだろう? それなら今の六商ギルドの商人に、国を渡るヒントを聞くといい。まぁ、今ここに居る商人が、友好的かどうかは、俺には判断できないがな」


「ありがとう、リオン」

「リオンさん、本当に……ありがとうございました」


 二人は、幾つかの食料をポシェットに入れて小さな体でリオンの家を後にした。まだ、自分の運命を切り開ける。そんな可能性を信じて。


――


「……いっぱい、お話ししちゃった」


 病室に吹く風、悲痛な沈黙、火のついていないジーンのストロースモーク、マリのそんな呟き。そして、ひとしきりの話を聞いたシルヴィが、何も言わずに二人に優しい抱擁を与えた。


「……辛かったわよね。誰にも助けてもらえない、そんな理不尽な人生。嫌だったわよね」


 二人を包む優しい言葉に、ミロとマリは不思議と涙は出なかった。シルヴィの暖かな言葉は、二人の旅路に一滴の水を落としたように染み渡り、二人はシルヴィの腕を抱き返して、優しく笑った。そして、穏やかな空気の中で、エリオは思案に目を細めて、二人に尋ねた。


「そうなると、お前たちはタロキアムを出るために、その六商ギルドのスィンツー出身者の手を借りたのか?」

「そうだよ。その時にタロキアムに来ていた六商の人が『良かったら世界樹の都に、こっそり連れて行ってあげよう』って言ってくれたんだ」

「それで、わたしたちは商人の馬車の中に、荷物として入ることができた。だけど」


――


「いやぁ、なかなかにスリリングな旅だと思わないかい? タロキアムの双子ちゃんたち」


 馬車に揺られて国を出て、穏やかな道でその“お兄さん”は二人に話しかける。


「今まで色んな商品を馬車に載せてきて、もう二周目に入ったんだけどさ、さすがに子どもを乗せたことはなかったからねぇ、うん。貴重な経験だよ」


 気さくなテンションで、その人物は話しつづけ、ときおり町に降りては商売と、二人の世話をする。最初は言葉の軽いお兄さんを信用していなかったが、結果として一年以上も同伴をすることになり、二人はお兄さんに対して、信頼を置くことができた。そして長い馬車旅の果てに、ついに二人はスィンツーとエリュ・トリの紛争地帯までたどり着いた。


「さて、ここからが世界樹の都の領地だ。これで君たちも旅の終点にたどり着いたね」

「一年間……ありがとうございました、お兄さん」

「あの、このお礼はなにをすればいいか……」


 一年間、色々な所を漫遊しながら旅路を楽しんだミロとマリ。その終着点で、二人は何か返せるものがないかと考えてそんな言葉を口にする。そして、お兄さんはしばらく考えて、首を横に振った。


「ううん。そんな気を遣わなくても大丈夫だよ。ボクも商人だ、うん。色々な商品は見てきているからね。でもどうしてもお礼がしたいって言うんなら、一つ叶えてほしい希望があるんだ」

「かなえて欲しい、きぼう……?」




「うん。君たちのアルカナで、この町を壊してほしいなって」




――


「っ……!!」


 冒険者たちの表情が、凍り付いた。


「お兄さんは、ボクたちがどういう境遇なのかを全て知ってた。そして、アルカナの能力も、それで『もし帰りたいのなら、ボクが連絡して送り返してあげるよ』って言って、ボクたちにこの町でアルカナを使うように……仕向けたんだ」

「わたしたち、逆らえなかった。これだけ旅をして、ようやくたどり着いたのに、また……タロキアムに戻されるって聞いて……こわくて……」


 こうして、ミロとマリの経緯は冒険者たちに全て語られ。あとに残ったのは、絡みあう運命に翻弄された双子と、傷を負ったエリュ・トリだけだった。




 事件の夜明け、レギーナは再び病室に戻され、ミロとマリは身体の状態が大丈夫である事を確認して病院からギルドの処罰牢に移送することになった。四人の冒険者に連れられて、俯いた顔で病院から出るミロとマリ。そしてオーデクスが双子の前に立ちはだかり、剣を突き立てる。


 その傍らで、シルヴィ、エリオ、スカーはそのお兄さんについて語り合う。


「おそらく、その商人はエリュ・トリにはいないでしょうね」

「そうだな。一年をかけて回る六商ギルドだ、スィンツー方面から来たのなら今頃はこの国の別の小国だろう」

「小国は自治権を持ち、必要以外では共同はしない。そのスィンツー生まれの商人は、そのあたりのルールを頭に入れたうえで行動したんでしょうね」


 エリュ・トリに事件を引き起こし、運命に絆された子どもたちを尚も弄んだその商人。スカーたちはその一部始終を頭に入れて、ジーンとオーデクスのやり取りを見守っていた。

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