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第39話 幕間:白の占星術師

………




……







「うあぁぁぁぁぁぁん!!!! あぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!!!!」

「ぐすっ……ひっ……うぇぇ……ふえぇぇぇぇん…………」


 星の輝きを持つ剣を無数に浴びた母と、岩の柱が胴を貫いた父の亡骸に、ミロとマリは泣くことしかできなかった。最後まで自分たちを守ろうとした両親の、手を伸ばして抱き上げようとするその姿をとどめた最期は、二人の心を壊すのには十分なものだった。


 もう、アルカナなんていらない。両親を返して。こんなことのために頑張ったんじゃない。もうわるい事はしない。


 そんな誰に届くわけでもない願いが溢れて、何も起きる事のないその場所に、二人の涙と共に願いが落ちた。




 そのとき、二人が泣き叫んでいた裏で、町が風に揺れた。ミロとマリは、泣きじゃくる背中に風を感じて振り返る。そして空を見上げて天蓋の奥を見遣ると、星空が割れて、巨大な左右の手が姿を見せた。


 空間を切り裂いて現れたその手は、天蓋を掴み、それを真ん中からゆっくりと引き裂くようにして打ち砕く。ゆっくりとした動作の中で、二人が起動したジャスティスは、圧倒的な存在によって、綺麗に二つに分かれて空へ消えていった。そして天蓋が消えたことで町の混乱は止み、それまで聞こえていた悲鳴は収まった。


「おーい! そこに生きてる人がいるのかぁー?」


 何もなかったように静かになった夜。涙と後悔で疲れ果てていたミロとマリの耳に、少し低い男の声が聞こえてきた。二メートル近くの長身を持つ男は、白い修道服のようなものを身につけて、ミロとマリがいた家の前までやって来た。


「おいおい、子どもが二人も!? 両親がかばったのか……いやそれより、この二人……」


 男は、二人が手に持っていた鏡の天秤を見てその二人が何をしたのかを理解した。そして男は、指を鳴らして自分のアルカナをすぐそばに呼び出した。


「おい、この二人を抱っこして守ってやってくれないか。どうせプトレマの元老院の事だ。すぐに感づいてこの子たちを探し始めるだろう」


 男が宙に呼びかけると、何もない場所が水のように波紋を起こして、その中から白い肉体を持った人のようなものが現れた。その人型は二人の子どもを両脇に抱え上げて、僅かに浮いた状態で男に追従する。


「とりあえず俺の隠れ家に避難させてやってくれ、しかし……」


 それと同時に、リオンは振り返り、すでに事切れた両親らしき人物たちの姿を見つめて、薄ら寒いような雰囲気を感じた。


 守ろうとする両手と抱きかかえようとする動作。この子たちを守ろうとしていた姿だと最初は信用していたが、その失われた瞳の輝きのさらに奥から感じる、例えようのない違和感。リオンはその違和感に首を横に振る。その予想が当たってないことを願うかのように。




 岩の洞窟の中、ミロとマリは水の雫のぽたぽたと流れる音に目を覚まして、その場所を見回す。灰色の石を削り出して作られたテーブル、部屋の一角には同じような石で出来たダンベルなどの鍛錬器具。そしてどうやって作ったのか分からない、石板を組み合わせて作った本棚。いきなり目の前に広がった光景に、二人は虚ろな目で緊張を走らせた。


「ようやく目が覚めたか。アルカナ使いの双子」


 二人が起き上がった事を確認して、白い修道服風の男が笑顔を浮かべて戻って来る。


「いきなりで悪かったな。あの場所にいたらお前らも危なかったからな」


 男の気さくな言葉に、二人は何も言葉を返せなかった。二人にできるのは、ただ虚ろな四つの瞳を返す事だけ。男はそんな二人の様子に少し思案した。


「うーん、まだ目は覚めてないか。それなら……おーい、こいつらを高い高いしてやってくれ!」


 誰にでもなく男がそう呼びかけると、二人の後ろの空間が切り開かれ、普通の人よりも一回り大きな白い腕が、ミロとマリを抱え上げた。


「えっ!?」「ふゃっ!?」


 そして謎の白い腕は、二人を真上に放り投げたりキャッチしたりして、お手玉でもしているかのように子ども二人と遊んだ。ミロとマリは、急にそんなことをされたもので、今までの考えの読めない目を忘れて、ただただ驚きの表情を浮かべていた。


「俺は、リオン・ケテル。まあ見ての通りの占星術師でアルカナ使いだ。お前たちも大変だったな」


 自分の名前を聞き、ようやく話すことが出来るようになったミロとマリから事情を聞く。双子の凶兆、ジャスティスの顕現、そして町の……


「うぅ、おとうさぁん、おかあさぁん……」

「ほらほら落ち着け。ハンカチやるから涙と鼻水を吹けって」


 顔を涙でいっぱいにするマリに、綺麗なハンカチを差し出すリオン。そしてリオンは、二人の話を聞いて納得したような声を出した。


「まぁ、俺が予想した通りの内容だな。お前たち、あのアルカナの召喚は初めてだろ」

「そう、だ」

「だよなぁ。そうじゃなきゃあんな制御不能な状態にはならないだろう。お前たちが呼び出したアルカナ【ジャスティス】その名前を持つアルカナのたどる道は『正義との対峙』だ。このアルカナを持つ者は秩序を維持したり不平を正す役割があるんだが、お前たちのたどってきた道を考えると、どうやらお前たちのジャスティスは『お前たちにとっての不平を裁く』という運命を歩んでいるみたいだな」


 双子として生まれてきてからの、様々な場所での扱い。二人が受けてきたそれを、ジャスティスは見通していた。そして顕現の際に、二人を不当に扱ってきた者たちを自らの意思で排除するために、管理者であるミロとマリの言葉も聞かず、町を壊滅に追いやった。リオンの推測はそんなところだった。


「可能性としては、これまでにお前たちが受けてきた双子としての扱いに、制御不能なジャスティスが反応したんだと思っている」

「けど……それじゃあ、お父さんとお母さんが自分の分身に襲われたのはどういう意味なんだよ! お父さんとお母さんはそんなことは言わなかった! どっちもボクたちがジャスティスを使えるようになったことを、喜んでた、のに……」


 ミロの反論に、リオンは少し気まずそうな顔をする。肘をついて両手を口元におき、口の動きを二人から隠して思案するリオン。だが目をつぶり、一息ついたリオンは二人に説明する。


「……じゃあ聞くが、もしも、剣で背中からくし刺しにされた母親と、腹を鋭利な岩に抉られた父親に抱きしめられていたら、お前たちはどうなったと思う?」


 リオンの質問に、二人はハッとして一筋の汗をかいた。刹那、二人の頭の中にめぐる光景は、自分たちが見た両親のそれよりもおぞましい光景だった。


「死んでしまっては俺に理由は分からないが、おそらくお前らの両親は、心のどこかではお前たちに……死んでもらおうと思っていたんじゃないか? それに今まで現れなかったのに、急にそれが表れて両親を殺したというのなら……」


「言うのなら、なに……?」


 リオンの考える顔に、不安を早く払拭したいマリの言葉が急かす。そしてリオンは首を横振って、それが真意ではないと信じて二人にその理由を語った。


「そうだな、個人的なカンではあるが、お前たちに、責任を感じてほしくなかったんじゃないかと思う。このタロキアムに双子として生まれてきて、色々な憂き目にあってきて、やっとの思いで手に入れたアルカナが、勝手に町を滅ぼそうとしていた。両親も占星術師なら、その罪の重さは分かっていたはずだ。だからせめて、責任に押しつぶされて後ろ暗く生きていくよりも、全てを手放して全員で心中した方が、優しいのではないか……そう考えたのかもしれない」

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