第37話 幕間:双子
「お、お兄さんを……わるく、い、言わないでっ……!」
「そっ、そうだ! これはボク達が起こした事件なんだ! お兄さんは…ボクたちをただ、タロキアムから運んでくれただけなんだ……」
それは、病室でのミロとマリの弁明にさかのぼる。子どもである二人の必死の懇願。一つのベッドの上で、ミロは敵意を、マリは丸まった後ろ姿を突き出して5人の冒険者の質問に答えた。
「どう思う、スカー?」
「うーん……そうね」
シルヴィとスカーは、二人の言葉を信じるかどうか考えあぐねていた。スィンツーに利用されたと読む線。タロキアムの人間として逆に二人がスィンツーを利用していると読む線。ここに居るタロキアム出身の双子の事をどこまで信用するかと言うのは答えの出にくい重要な問題だった。だが、そんな問題をして、意外な男がその結論を出した。
「まぁ、信じてもいいんじゃねえの?」
コツコツと、二人から距離を置くように窓辺に向かい、青のストロースモークを咥えて外を眺めながら、ジーンはそうつぶやいた。
「タロキアムがどうだとかスィンツーがどうだとか、気になる所はあるけど、今のこいつらは二人のちびっ子だ。それに俺が入った時の反応を見たろ? フリだけできる演技とは到底思えねぇよ。そうだろ、尻を隠し忘れてるおチビちゃん」
ジーンの言葉に、丸まって頭を守っていたマリがそのすき間からちらりとその場所の様子を伺う。
「マリ、あのおじさんは窓辺にいるから」
ミロの言葉に促されたマリは、おずおずと枕を外して顔を出す。そして二人は、ようやく落ち着いて話をする状態になった。
ローブを外してその素顔を見せる事になったミロとマリ。深い藍色のおかっぱに夜明けの様な青のインナーカラー、そして表面がキラキラと星の瞬きのように輝く髪が露わになる。
それと同時に二人の目も明らかとなる。左目が銀のようなグレー、右目が薄いエメラルドグリーンのミロ。その逆で右目がグレー、左目がエメラルドグリーンのマリ。それぞれのグリーンの方の目には、薄い透かしのような“天秤皿”の映り込みが入っていた。
ムスッとした表情と、おどおどした表情、二人のそんな自然な反応も相まって、ベッドに座り込んでいる二人の姿は、まるで精巧な人形を見ているような錯覚を起こす。
「……なんだよ、そっちのお姉さん、ずっとボクたちをじろじろと見て」
「いーや? そんなにじろじろは見てないわよ?」
「スカー、あなた見境なしね……」
スカーの下心を込めた視線にミロの顔が歪む。そんな二人の前に、シルヴィがひざを曲げてかがみ、同じ目線の高さで話を聞く。
「とりあえず、ジーンの言う事に従って、あなた達の事を信じるわ。それで、あなた達はさっき、タロキアムを脱走するためって言ってたわよね。もしよかったら、その話を聞かせてもらえる?」
一つのベッドの上で、足をプラプラさせながら座っているミロとマリ。二人は天秤模様の瞳の映り込みを揺らして、お互いの顔を見合わせる。ミロは少し寂しそうにマリの反応を窺ったが、そのマリは、今までとは違う真剣な表情をミロに見せていた。そして二人の無言の会話は終わり、お互いの顔を見合わせたまま、静かにうなずいた。
双子だ
双子だ
なぜ生まれた
これは暗示だ
惨命の子だ
かわいそうに
かわいそうに
この子たちは特別だ
その運命は決まった
ミロとマリは双子である。タロキアムの助産院で、ローブに身を包んだ何人もの占星術師に見守られながら、助産師の手でミロは取り上げられた。占星術師たちは、新たな命の誕生を祝福し、その行く末に大きな期待を寄せていた。
しかし、ミロの手が母体の中に残る『もう一人』をつかんで離さなかった所から、周りの空気は一変した。
産声を上げながら必死に何かを掴んでいたミロ。助産師はそれがどういう意味を示すのかを悟り、動揺と冷や汗で視界が曇るのにも構わず、もう一人の子を取り出した。それが、ミロの双子の妹マリの誕生だった。
「双子が生まれた」
占星術師たちは、マリが取り出されたことについて密やかに言葉を交わす。二人の産声と、術師たちの囁きという異様な光景が、この出産の現場に流れていた。
――
「タロキアムには、双子を忌み嫌う風習があるの。わたしたちが使ってるアルカナって言う力は、ひとりの占星術師がひとつを持つことが出来るの。だけど、双子って言うのは、アルカナを持つはずだった力が、ふたりの子どもに分かれちゃう事なの…」
「だから、マリが生まれた時、周りの占星術師のおじさん達は、ボクらの事を不吉の象徴って呼んでたんだ」
――
二人の両親は、双子を見捨てはしなかった。占星術師たちが不穏を叫ぶ中で、それでも育てていく事を告げ、術師たちは渋々納得した。そして不吉の象徴とされた双子は、無事に命の始まりを迎える事となったのだ。
不穏を呼んだ双子だとしても、望んで生まれてきた子どもである事には変わりなく、細々と暮らす占星術師だった両親の元で、二人はすくすくと育っていった。色々なおもちゃに興味を示したり、公園ではしゃぎまわったり、ときには家に置いてあった星を題材にした本を読んだりして、不吉とは名ばかりの、等身大の子どものままで成長していった。
町中でその存在が噂され、後ろ指を指される事もあったが、両親にとっては不吉の象徴など関係のない、自分たちの大切な子どもたちである事は変わりなかった。
だが、そんな普通の子どもの暮らしを経たとしても、このタロキアムでその不吉の象徴という印象と向き合わなければならない時が来る。
【星詠み】と呼ばれる儀式がある。占星術師の家系だったり、術師を目指すものだったりという目的を持つ子どもたちが、幼少から大人にかけて『アルカナを有するに足るか』どうかを試す儀式である。
ミロとマリ、7歳。
両親に連れられて人生で最初の星詠みに臨む二人。物々しい雰囲気と、二人に対する囁き声に、怖いという感情が渦巻く中で、長い長い白ヒゲを蓄えた老人が、目の前の水晶に力を流し込み、二人の星詠みを始めた。だが、その星詠みの結果は、二人と両親にとって想像以上に苦しい結果だった。
いずれもアルカナを持つことはできない。
いずれもアルカナに重要なものを持たない。
運命を見る事も出来ず、運命を決める事も出来ない。
片割れとなった者たちは自分を脅かす運命を見逃し
運命にもつれて短い命を終えるだろう
最初の星詠みを迎えた両親は家に戻って深く悲しんだ。星詠みが持つお告げで人生の終わりが告げられた時、それはその時点から遠くない未来に死ぬという事を暗示している。両親は、占星術師として知らなければならない知識でその意味を理解した自分を恨んだ。そして何より、人の目に抗ってここまで育ててきた子どもたちに、そんな運命しか与えられなかった自分たちを悔やんだ。




