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第36話 明かされる双子の謀略

 オーデクスとの別れのあと、スカーたち四人はエリュ・トリの町の様子を確認するために見回りをしていた。やはり広範囲を巻き込んでの事態で、どの場所でも人々は疲れ果て、家々には傷が残る。


「結局、天蓋の主については分からずじまいか」


 様子をうかがっていたジーンが呟く。三人もその言葉に残念そうな表情を見せて、狩猟区の森林との境目までたどり着いた。そんな中で、シルヴィがふと思い立って3人に尋ねる。


「ねぇ、そう言えばこの騒動でレギーナは見た? 私一度も見てなかったけど…」

「あたしも見てないわよ」

「目にしていないな。見落としてた可能性は否めないが」


 スカー、エリオは共に首を横に振る。そしてジーンは石畳や立ち並ぶ民家の外壁に手を添えながらシルヴィの質問に答える。


「俺も見てねぇな。けど、こん中じゃあいつが一番の功労者だと思うぜ」

「功労者? 一体何を言って……」


 ジーンの意味深な返答に首をかしげるシルヴィ、そしてジーンは狩猟区の森林に目を向ける。質問したシルヴィも同じく森に目を遣ると、カサカサと言う音と共に、二人の子どもを両脇に抱えたレギーナが現れた。


「れっ、レギーナ!?」


 虚ろな瞳で、抱えていた子どもを手からこぼれ落とすレギーナ。ドサッ!と言う音と共にローブを着た子どもたちは石畳に寝転がる。そしてレギーナは、シルヴィ達を見つけたことで、糸が切れたようにその場に倒れる。


「レギーナ!」


 自分も手負いのシルヴィがレギーナに駆け寄って、なんとか彼女を抱きとめる。混じり気のある息遣いがシルヴィにも聞こえてきて、決して安全ではないと悟り、三人に助けを求める。


「三人とも、この子どもたちとレギーナをすぐに運びましょう! もしかしたらレギーナ、一番被害が大きいかもしれない」




 未明の病院。未だ町中も荒れたままの時間に、レギーナは見覚えのない天井を見て目を覚ました。


「……こ、こは」


 柔らかな風の音と、それに紛れる土の香り、火の粉の匂い。自分の身体が横たわっている白いベッドの感触で、自分の大まかな境遇は理解できた。


「おはようさん、レギーナちゃんよ」


 目を開けたことを確認するような、聞き慣れた渋い声が聞こえてくる。レギーナが身体を右に傾けて、その声の主…ジーンを見遣る。


「あの、子どもは……」

「心配すんな。今は他の病室に2人寝かせてある。片方は気絶、もう片方はエナジーの使いすぎで軽い昏睡だとよ。だが怪我はほとんどねぇからもうすぐ目を覚ますだろうとさ」

「そう……ですか」


 安心したように身体を戻すレギーナ。だがそんな彼女に、ジーンから少し厳し目の言葉がかけられる。


「他人の心配してる場合かよ。一番ひどかったのはお前さんだぜ。複数の切り傷と傷口からの出血、その上それだけじゃ説明がつかないレベルの失血もあった。深手もあるから完治はできてもあとが残る可能性が高い。いくら主犯を捕まえるためとは言え、無茶しすぎだ」

「それは……」


 言葉に詰まるレギーナ。そのしょげたような様子に、ジーンはそこから先の言葉を切り出せなかった。


「はぁ、とにかくまずは休め、お前は事件を解決に導いた功労者なんだからな」

「……はい」


 それ以上、レギーナに余計な体力は使わせまいと、ジーンは話を切り上げて、その場をあとにした。


 ジーンは、レギーナのいる病室を出て、その上の階にある病室に向かう。そして、事件の負傷者達の人だかりが出来ている病室を見つけて「やれやれ」とばかりにため息をつく。


「おーい、通してくれ。俺はそのちびっ子達に用があるんだ。そもそも、見物は禁止だっただろうに」


 人混みを押しのけて、ジーンは病室へ入る。中にはスカー、シルヴィ、エリオと共に、ベッドの上で目を覚ましたミロとマリが揃っていた。


「どうやら目を覚ましたみてぇだな」

「お前は……お前もこいつらと同じぼうけんしゃなのか?」


 起きていたミロは、スカーたちから多少の話は聞いたようで、言い慣れない言葉でジーンに問い質した。


「あぁ、そうだ。そしてついでに、お前たちが張った偽の星空をぶっ壊したのも俺さ」

「……っ!」


 ジーンが天蓋の破壊を証言してすぐに、隣で不安そうに聞いていたマリの身体が総毛立った。


「やぁっ、来ないでっ! 白い光……こわい……もうやだぁ……ぅぇぇん……!」


 途端にパニックを起こして、枕で顔をふさいでおしりを向けてガタガタと震えるマリ。ジーンはそのあまりの怯えっぷりに、何処か罪悪感のようなものを感じてしまい、それ以上何も言えなくなった。


「はぁ、まぁジーンの事は置いといて、あなた達がエリュ・トリに分身騒動を巻き起こした張本人って事で良いのよね」

「そ、そうだ……ボクらがジャスティスで町を覆った。そっちのおじさんが壊したって言う天蓋も、ジャスティスの力だ」


 四人の大人に囲まれて、聞かれたことに素直に答えるミロ。そしてシルヴィが、次の質問をする。


「そもそも、あなた達はタロキアムの出身なんでしょ? どうやってここに来たの?」

「それは……言えない」


 今度は視線をそらして答えを隠す。そしてエリオからの質問。


「なぜこんな事をしたんだ。タロキアムとエリュ・トリはまったくの無関係だ。あえてここに来てまで、何の目的で事件を引き起こした?」

「……それも、言えない」


 今度もまた、答えを隠した。四人は掴みどころのないミロの回答に、何を聞けばいいのかに悩んだ。すると、入り口のドアの方から、ガタッと言う音と共にレギーナが顔を出した。


「ちょっと! ダメじゃないのレギーナ! まだ安静に」


 柱に手をかけるようにして立つレギーナに、シルヴィが慌てて駆け寄り、どうにか肩を貸す。だがそんな状況に軽い感謝だけを伝えて、レギーナは双子に問いただした。




「お兄さんって言う人と、関係があるのでしょう」




「なっ!? お前何処でそれを……あっ!」


 無理に身体を起こして、病室前のドア枠に手を掛ける形でそう口にするレギーナの言葉で、それまでの質問の態度から一変し、あからさまに動揺を見せるミロ。その反応はすでに答えであり、ミロがハッとした頃には、五人の視線が促す質問の内容は決まっていた。やがてミロは、その視線の意図を理解して、ボソボソとつぶやき始めた。


「……ボクたちは、タロキアムからお兄さんに運んでもらったんだ。お兄さんは、商人ギルドの人だって言ってた。ボク達は……タロキアムを脱走するためにここにやって来たんだ」

「それで、そのお兄さんって人の名前とかは分かるの?」

「うん……でも、絶対に言っちゃダメだって言われてる……お兄さんは『君たちを助けるためにも、ボクの名前は言わないほうがいい』って言ってて」


 ミロのそこまでの話で、いち早く反応したのはスカーだった。それは、以前の彼女の経験から来るものだった。


裏の裏で糸を引き


事件を起こすための策を弄し


そして、子どもですら利用する無情さ


「そのお兄さんって、スィンツーの人?」


「えっ!?なんで、どうしてわかったのさ……あっ!」


 スィンツー。


 その一言で、五人の表情は一気に険しくなった。侵略の紛争から三年でここまで弄してきた事もそうだが、最も許しがたいのは……


「スィンツー、まさかこんな子どもたちまで利用して……」

「どうやら、思った以上になりふり構わねえ国なんだな」

「やっぱり、三年前から何も変わってないわね」


 だが、そんな冒険者たちの反応に、おしりを向けていたマリが震える声で反論をした。


「お、お兄さんを……わるく、い、言わないでっ……!」


「そっ、そうだ! これはボク達が起こした事件なんだ! お兄さんは…ボクたちをただ、タロキアムから運んでくれただけなんだ……」


 必死に弁明をするミロとマリ。その健気さをスィンツーの人間の洗脳ではないかと疑った所もあったが、結果としてスカー達は、それ以上お兄さんには言及しなかった。




 事件の夜明け、レギーナは再び病室に戻され、ミロとマリは身体の状態が大丈夫である事を確認して病院からギルドの処罰牢に移送することになった。四人の冒険者に連れられて、俯いた顔で病院から出るミロとマリ。そして、そんな六人の前に、不機嫌な表情を浮かべたオーデクスが立ちはだかる。


「そいつらが犯人なのか」


 敵意を向けるオーデクスに、ミロもマリも足がすくむ。二つ三つの差しかない両者だが、それでも10歳の少年少女と、13歳の冒険者は、大きな差である。そしてそんなオーデクスの前には、三度ジーンが立った。


「それは、お前に何の関係があるんだ?」

「関係あるだろ! コイツらがっ! コイツらのせいでっ! エリュ・トリが壊されたんだぞ! 冒険者もっ! 町中もっ! 肉屋に花屋もっ! 全部壊していった!! オレの母ちゃんだってケガをしてた! みんなの家族だって……!」


 オーデクスの叫びに、ミロとマリはただ俯くしか無かった。それは、二人だけではなく、ここにいる全員が分かっていたことだった。二人のアルカナである【正義ーNo.LXII】は、エリュ・トリに混乱を引き起こした。変えられない真実だ。そしてオーデクスは、すかさず剣を抜いて、二人に突き立てた。


「ひっ!」「ひゃっ……!?」


 オーデクスの剣の先が自分たちに向いていると分かったミロとマリは、オーデクスの怒りを溜めた顔も相まって、移送を手伝っていたスカーやエリオ達の影に隠れようとする。


「オレは許さない。スィンツーも許さない。犯人は許さない。こんな子どもでも許さない。オレの友達を泣かせる奴らは許さない。これ以上、オレの周りで誰かが泣くのを、許したくない」

「そりゃご立派だな。冒険者」


 オーデクスの恨み言に、ジーンは尚も先を譲らない。


「だがな。お前の理想は綺麗すぎる。周りで泣く人間を減らしたいのは良いことだが、お前のそれは独りよがりって言うんだよ。お前のその信念は、まだお前が未熟だってことを表してんだ」

「でも……でもっ!」


 オーデクスは、自分の証明をしようと頭を巡らせる。しかし、そこにいる男が、そこらにいる野良の冒険者ではない事で、今までのような物言いが出来なくなっていた。そしてジーンは、わずかに左に足を運び、オーデクスの目にミロとマリの姿がはっきりと映るように仕向けて話を続けた。


「お前がそう言う心情を持つのは自由だ。それは理想論だが目標だ。だが、それ故にお前も見極めるんだ。このちびっ子二人が、お前の言う周りで泣く奴らに入っているのか、いないのかを、な」


 張り詰めた空気。


 緊迫した空気と少年の表情に、弱気なマリのみならずミロですら表情に恐れが浮かぶ。だが、しばしの静寂の後、オーデクスはゆっくりと剣を降ろし、鞘に納める。剣が動いた瞬間に、ミロとマリはビクッ!と背筋を伸ばしたが、オーデクスの手から剣が離れたことで、再び猫背のように丸くなった。


 オーデクスは、自分の視線の先で震えている二人の子どもを見る。その姿は、自分が見た友達の、いつかの表情を思い出させる。そして、オーデクスはゆっくりと、そしてぎこちなく足を踏み出して、ジーンの横を通り過ぎ、ミロとマリに近づく。二人は無意味に近づいてくるオーデクスに怯えたが、二メートル程の距離で立ち止まったオーデクスに、恐る恐る視線を向けた。


「……オレは、町を壊したお前たちを許さない。でも」

「でも、俺の周りでそんなメソメソした顔を見せるのも嫌だ。だから……本当に許さないかどうかは、次に会った時に決めてやる」


 少年の言葉は不器用だった。しかしそれでも、周りの大人たちは彼の言葉の意味を理解していた。そして、自分が言った言葉にどこか気まずさを感じていたオーデクスに、ジーンが後ろから髪をくしゃくしゃになりそうな勢いでなで上げた。


「いい事言うじゃねえかよ、少年! また一歩英雄に近づいたんじゃねえか?」

「う、うるせえっ! オッサンの方は英雄の癖になんか……適当なんだよ!」

「お? やるかぁ? でも残念ながら俺はお前に合わせるだけの手加減を知らねえからなー」

「あーっ! 今バカにしたな! やってやるよ! 英雄だってバケモノだって、オレがぶっ倒してやる!」


 オーデクスとジーンの掛け合いが朝日を呼ぶ頃、この一連の騒動は解決した。街は傷も多く、すぐには戻らないだろう。だが『昨日』に打ち勝った市民にとってそれは些末な事だ。壊れたものが多い中でも、火のエナジーは料理や家事の支えになり、水のエナジーが人々に潤いを与える。土のエナジーはこれから石の街を修復し、このエリュ・トリは、また『今日』を始めるのだろう。

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