第31話 爆炎と弱虫の英雄
なんだよこれ!?こんなエナジーの使い方見たことないぞ!
助けてぇ!地上で溺れさせられるっっ!!
「はぁ……はぁ……」
町々で同じ者同士の争いが巻き起こる中、オーデクスもまた、剣を構えた自分の分身と対峙する。だが、オーデクスの息は上がり、さんざん逃げ回った足は膝から震え、剣を持つ手に力が入らなかった。
ジーンの一言で何とか立つことの出来たオーデクス。だが分身は、そんな彼を逃がしはしない。得られた退路を潰すように、分身のオーデクスは幾度となく本物に斬りかかる。そのうえ分身も、土のエナジーを使った加速技を使い、先回り、背面取り、そして重撃と、オーデクス以上に激しい立ち回りで本人を翻弄する。
「くそぉ……なんであっちのオレはこんなに強えんだよ……攻撃はぜんぶ弾かれて、あいつの剣は避けることしか出来ねぇ。オレのくせに……オレの、クセにぃ!!」
一方的な戦いを強いられていたオーデクスは、弱腰のままギルド前から脱出して、石炉亭近くまで逃げ切っていた。服は土埃にまみれ、鎧はこけた時の傷でガタガタ、引きずりながらも、どうにか持ってきた剣は、戦いを知らずに傷を入れていた。
「っ!!」
「ぐわぁっ!」
分身が上から剣を振り降ろし、オーデクスはどうにか自分の剣に両手を添えて受けきる。急場しのぎの防御のおかげで、自分の剣の切っ先が手をかすめて、手にはいくつかの切り傷が残る。
(ダメだ。勝てねえ……オレなのに、あいつはオレよりも動きが強い。コケてすりむいてるばかりのオレじゃ、あいつに殺される)
「やめろよぉ……」
足がガタついて、立っているのもやっとな程の恐怖の中で、オーデクスは情けない声を上げる。これまで吐いてきた大げさな物言いが全て冷め切る程に情けない一言から、オーデクスの精神は限界寸前になっていた。
「ぐすっ……オレ、勇者じゃねえよぉ……自分にも勝てねえし、鹿にもバカにされるし……狩りも出来ねえんだよぉ……ひっぐ……もう、俺を攻撃するなよぉ……もうわるい事は言わないからぁ……うああああん……」
もはや、分身相手に力強い言葉を出す勇気も無くなったオーデクス。しかし分身は待たない。じりじりと距離を詰めていき、剣の間合いまで駆けだしていき、今度こそ、分身の振り降ろした剣が、オーデクスを両断しようとした。
ドゴーン!!!!!!
分身がオーデクスにとどめを刺そうとした矢先、分身は突然の轟音と猛烈な爆発に巻き込まれて街道横の民家に吹き飛ばされた。そして、何が起きたのかを情けない顔で見まわしていると、石炉亭の中から黒焦げ姿のマグリットが現れた。
「出ていきな、アタシのなり損ないが! 人に食わせる飯もろくに作れない木偶の坊なんざ、この石炉亭にゃ必要ないんだよ!」
「マグリットの、おばちゃん……?」
大見得を切って、爆風の中から現れた、マグリットと思しき黒焦げは、オーデクスの弱々しい声を聞いて自分の足元を見る。
「おや? あのやんちゃ坊主じゃないか。こんな所で何しょげてるんだい?」
「オレ……おれぇ……」
オーデクスがぐずぐずと泣いていると、オーデクスの分身が吹き飛ばされた先から物音がする。そして、吹き飛ばされた瓦礫や資材の中から、マグリットと同じ体つきの分身と、剣を構えたオーデクスの分身が現れた。
「はっ! さすがに一回や二回じゃ死なないね! このマグリットになったからには、一度や二度の爆撃で死んでもらっちゃ困るからね!」
「マグリットのおばちゃん。逃げようぜ……! アイツら、本人よりも強いんだ。勝てないって!」
オーデクスの弱気を聞いたマグリット、そして分身のマグリットが突撃してきて、向こうが右の拳に火を灯す。だが本物のマグリットはその爆炎の拳を右手で握り込み、そのまま体の回転を使って更に数メートル向こうへ投げ飛ばした。そしてまた、石炉亭で聞いた轟音と共に、四つの火炎弾が石畳に打ち付けられた分身のマグリットに直撃する。
ボバァン………!!!!
「馬鹿が! アタシがする事なんざとっくに気付いてんのさ。あんたがアタシと同じことをしようとするのなら、あたしはそれを逆手に取る。一生逆手に取ってりゃ、あんたは手詰まりだろうね、はっはっは」
「なぁ、マグリットおばちゃん! 早く逃げ……」
服の裾を引っ張って、この場から逃げようとするオーデクス。だがそんな少年の言葉を二度聞いたマグリットは、迷いなくオーデクスに言い放った。
「……甘ったれた事言ってんじゃないよ! あんた冒険者だろ! アタシみたいな料理人がやり合ってんのに、なに情けないツラ見せてんだ!」
耳がキーンとする程の大音量で、オーデクスを然り散らすマグリット。その声は、周囲で逃げまどい、自身に襲われていた民衆にも響いた。そしてマグリットは、向こうの方で立ち上がろうとする彼女の偽物に目線をくれながら、オーデクスの態度への率直な言葉を吐き捨てた。
「このエリュ・トリは、自分より強い奴らと戦ってきた冒険者たちが守ったんだ。だったらせめてもの礼儀として、アタシたち市民は今の自分より弱い奴らに負けちゃいけないんだよ。でないと、決死の覚悟で守り抜いた英雄どもに合わせる顔が無くなっちまう。それに比べてあんたはどうだい? アンタの分身は……あんたが自分の分身だと思ってる昨日の自分は、今日のアンタよりも本当に強いのかい?」
マグリットはその言葉と共に分身へ特攻して行って、オーデクスから離れた場所で爆炎をまき散らして偽物をちぎっては放り投げていた。そして、マグリットの言葉を聞いたオーデクスは、深く俯いて立ち上がる。
「オレは……冒険者……?」
そのオーデクスにもまた、偽物の影は近づいてきた。マグリットの分身に巻き込まれる形で開けられてしまった距離を詰めるように走り出し。俯いている本人の直前で上に飛び上がり、三度その剣はまっすぐ振り降ろされた。




