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第29話 自分との戦い、クロス・リッパーの苦悶

 民家の屋根伝いで戦うエリオとエリオ。街道を挟んだ家々の屋根を渡り、お互いに一歩も譲らず、氷結能力同士の争いが続いていた。


「同じ力なら使い方を弁えているこちらが有利か。だが終わりが見えないな。ジリ貧になれば、形勢は容易に傾く」


 自分の周囲で水分を凍らせるための空気を保ちながら、針や剣を模した氷塊を打ち出す両者。民家の屋根を渡り続け、どうにか対抗できないかと考えるエリオ。やがて二人は繁華街の噴水の前までやって来て、広場に着地した。


「噴水のおかげで水は十分、水エナジーも問題はない」


 繁華街の噴水、水が湧き続けるそれは、エリオにとって水のリソースとなる。そしてエリオは水エナジーで噴水の水をコントロールして、自分の周囲を、低温の水分が充満する結界に変えた。


「………ん?」


 分身も同じように噴水の水のリソースを奪い。それを手元で水晶のような水の球に変える。水エナジーの基礎である水操作。だが、分身のそれはエリオの技とは別のものだった。


パァン!


「何っ、水を割っ………か、はっ!?」


 分身の手元、それまで水の球体だと思っていたものから破裂音がして、その破裂に押し広げられるように周囲に濃く白い霧がかかった。破裂の衝撃で一陣の風が吹き、エリオが瞬く間に霧に呑まれる。


 瞬間、自分の呼吸が妨げられたことを感じた。吸えない、吐けない、水の中でもがくような息苦しさを感じて、すぐに分身の行った行動を分析した。


(こいつ………低温にした水を破裂させて、強制的に低温の霧を…肺に…)


 突然の破裂により、周囲の空気はその衝撃ですぐに置き換わる。エリオの分身は水の球体の温度を極端に下げて、それを破裂させることで周りの大気温を強制的に下げるという荒業を攻撃の手段としたのだ。そして当のエリオはうっかりその低温の空気を吸い込み、肺の凍るような感覚に襲われた。そんな相手をじわじわと苦しめるその技術に、ついにエリオは視界がぼやけて膝をついた。



「はぁっ!!」


 石を変成させた矢を互いに打ち合う二人のシルヴィ。その攻撃は互角そのもので、この応酬では勝負がつかないことは明らかだった。だがエナジーも無限ではない。加減によってはエナジーが尽きて不利になる可能性もある。


「それなら……」


 シルヴィは矢の応酬の隙間に戦線を大きく下げて、狩猟区の自然の方へ向かう。そしてすぐさま木の上に登り、分身が近くに来るのを待つ。


 分身は大きく移動したシルヴィを見失い、地上から本物の姿を追うが、シルヴィが上にいる事を意識せず、シルヴィは自分の射程範囲に入った分身に、一気に畳みかけた。


「行きなさい!」


ザクッ!ザクッ!

ビシィ!

ドゴォ!!


 分身の周囲の自然すべてが、分身のシルヴィに攻撃の手を差した。木の枝は鋭利な銛として、土の塊は腹を抉る拳として、植物のツルが素早いムチとして、一斉に分身を叩きのめす。すぐに分身のいた場所は土煙に覆われて、それが晴れた所で、分身は仰向けに倒れていた。


「ふぅ、久しぶりに一斉攻撃を使ったけれど、結構エナジーの消費が激しいわね……」


 集中砲火を浴びた分身の前に降りてきて、その様子を探ろうとするシルヴィ。そして、分身の傷口から、これまでに見てきたあの特徴が見え隠れしている事に気付く。


「切り口から……星の空洞、やはり人間の分身も、今回の事件のいった……」


 そんな事を呟いていた矢先、今度は植物のツタのムチが、素早く本物のシルヴィの首に絡まり付いた。


「なっ!?ぐっ……!」


 突然の攻撃に首を取られるシルヴィ、しかし間一髪で右手の指を挟み込んで、そこからエナジーを流し込んでツルの制御を奪おうとする。


(まさか、あの攻撃で生きて……!?)


 首を守りながら分身に目をやる、すると分身はカッと目を見開き、シルヴィと視線を合わせる。


(まずいっ!私と同じ力を使うのなら……さっきの一斉攻撃をっ……!!)


「っ!!」


 直感したシルヴィは、すぐに周囲の土を踏み込んでエナジーを流し込み、分身と自分との間に土の亀裂を起こす。木々が揺れて、土の躍動に合わせてズレていく中で、シルヴィがいた場所に複数の木の枝が飛び出した。


(やっぱり……同じ技をつかうのなら、私が使える技には気を……)


 そこまで頭の中で考えていると、シルヴィは向こうで起きている行動に言葉を失った。


「何を、して……」


 距離を取り、首に絡まっていたツタも解くことが出来たシルヴィが見たのは、分身の周囲の異常な枯渇だった。木々から色が失われ、土はみるみる萎れていく。


「草木を枯らして、土を殺して……まさか、土と草木のエナジーを搾り取って、回復に……!?」


 その予測通り、分身だったシルヴィは、先ほどの猛攻で受けた傷を自然から吸収した力で治療する。そして1分と経たないうちに、シルヴィが与えたダメージはほぼ全て回復しきってしまった。


「まさか……そんな事まで」


 シルヴィの脳裏に戦慄が走る。この狩猟区にいる限り、土と植物とエナジーは…分身の回復源は無尽蔵に近い。このままでは、一方的に回復をされてこちらが先に枯渇してしまう。だが、仮に自分にも同じことが出来たとしても、それは自然と共に生きるシルヴィの信条とは決して相容れない。たとえ死んでも、その信条だけは破ることが出来ない。


「これじゃ……対抗しようが……」


 分身が近づく。これ以上むやみな戦いは出来ない。手詰まり状態になったシルヴィに加減する事もなく、分身は、先ほどのシルヴィが行った、自然全てを操作する攻撃を、容赦なく浴びせていく。



 人が離れ、完全に二人だけになったスカーとスカー。二人は幾度となく剣を交えて、音のない交差と一瞬の烈風を巻き上げて競い合う。だが、その情勢は芳しくはなかった。


「いっつ……」


 頬、腕、脚、


 本物のスカーの身体の各所に出来る小さなキズ。それらから血がにじみ、スカーは次第に痛みを感じ始める。


 勝負は互角ではなかった。それには二つの理由がある。


 一つは、本物のスカーが防戦に転じていること。スカーは、相手が自分と同じ能力で戦うということの重さを理解していた。普段から完全な全力で争わないスカーにとって、同じ実力同士の者が本気で戦えば、そのリスクも大きくなる。


 ゆえに、向こうが自分の持つ力の何処までを出してくるかを見極める必要があった。そして、スカーの警戒心に漬け込むように、分身は本物が受け流すことの出来る程度よりも、一つから二つ上の手数で剣撃を放ち、スカーもそれを察知して、最小のダメージで防御するしか出来なかった。


 そしてもう一つは、向こうもまた『クロス・リッパー』である事。分身の攻撃はスカーよりもわずかに手数が多いが、それ以上に厄介なのが、向こうも服を剥ごうとする事だ。お互いがお互いの技量を探り合う中で、スカーも防具を削がれることだけは避けたかった。ただでさえ向こうの方が手数が多い中で、向こうが服を剥ごうとするのを防がなければならない。攻めに転じられるような隙が、今の分身にはないのだ。


「やっぱり、こいつはただの分身じゃない。これはおそらく自分が出せる能力を模した分身だ」


 スカーは、この戦いの中で分身の正体をそう確信した。


 戦い方からエナジーの操作方法まで、その本人が使える能力は本人の経験と思考の中から選ばれた能力に過ぎない。


 だがスカーは推測する。分身は本人の経験と思考の中から、最も効率のいい戦い方を選び出していると。それは分身の元になった本人が知っているかどうかは関係ない。分身は本人が持っている経験と思考から最も効率的な手札で戦ってくるのだ。


「アルカナって怖いわね……こんなのと延々相手させられれば、そりゃあスィンツーだろうと、手は出せないわ」


 防御、回避、そして軽微なダメージ。それらを繰り返す事しかできないスカーは、その終わりの見えなさでスタミナを何倍も消耗していた。それはまさに、スカー自身が相手の精神を削る時の戦い方、最速で相手を牽制して、相手の精神がすり減った所を見極めて、勝負を決める。人の服を剥ぐことが趣味の『クロス・リッパー』による、クロス・リッパーらしい戦い方である。


「そろそろまずいかも……あたしがあいつなら……次の攻撃は……」


 軽く肩で息をしながらスカーは次の手を思案する。スカーが考えることを、分身が考えるのなら……そんな裏の読みあいをしながらタイミングを計る二人のスカー。次の一手、相手の様子を見てもう一太刀ダメージを与えに来る。そんな読みと共に、両者が石畳を蹴り出した。


 再びの一閃、しかし、スカーの読みは外れた。分身の手はダガーを手放し、スカーの服に伸びていた。


(こいつっ!?このタイミングで装備をっ……!?)


 同じように静かな一撃と一瞬の烈風。そして背中を向けたスカーと分身。だがスカーは完全にしてやられた。


 分身の手には彼女の軽装鎧。そしてスカーは、黒の上下の下着、アイテム用ベルト、足回りの装備を残して分身に振り返った。


「違う……あたしがあの場面で斬撃を選ぶと読んだんだ。あたしのダメージを見て、次の攻撃で読み違いを起こして隙が出来ると……こいつはそこまで読んだんだ」


 ギリギリで戦闘に必要な装備だけを残したスカーだが、装備がないその身体は、どこから狙ってもダメージを受ける。胸当てと下着では隠せない、身体を這うような古傷。下手に動けば、次は致命傷もありうる。そんなことを考えているスカーに、分身は再び襲い掛かった。

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