第27話 夜が牙をむく
「お前が狩猟評価の事を聞きたいって言ってたからこうして評価してやったんだよ。こういう時はオッサンのアドバイスは耳に入れとくもんだぜ?」
「オレはオッサンに聞いたわけじゃねえよ。勝手に出てきて威張りやがって」
二人の、特にオーデクスの目にはジーンに対する敵意がむき出しだった。ジーンはそんなオーデクスの視線を受けて、少し煽るような、余裕を持った目を向けて、何も言わずとも相手を挑発するような態度で向かっていた。そして、オーデクスはまんまとジーンの視線の挑発に乗ることになる。
「……なぁ。オッサンがどんな奴か知らないけど、オレは今機嫌が悪いんだ。そんなにグダグダ言いたいんなら、オレと勝負しようぜ」
オーデクスからの挑戦状に、周りがざわついた。三等級冒険者の一部と、その場にいた他の全員は、オーデクスが挑発をした相手が誰なのかを理解している。そしてギルドで長くオーデクスの事を見ている先輩冒険者は「なんでことごとくあいつらに挑戦を……」と、頭を抱えずにはいられなかった。
そして二人は、夜を楽しむ者たちに見守られながら、冒険者ギルド前で決闘をする事となった。
「オッサンの評価は聞きたくねえ。オレは、あの赤髪の姉ちゃんとまた狩りがしたかったんだ」
「そうかい。ならその赤髪の姉ちゃんに近付くために、オッサン一人ぐらいは倒していかないとな」
ジーンの挑発に、オーデクスの剣を握る手が強まる。そして、抜き身の真剣を構えたオーデクスは、脚元の岩をバネのように跳ね上げて、持ち前の脚力で一気にジーンに詰め寄った。
「はぁっ!!」
キィン!!という刃と刃がぶつかり合う音が響く。ランプに灯された夜の街道は、そんな二人の決闘を観る客で次第ににぎわい始めた。
おーっ、いいぞボウズ! やれやれー!
オッサン! 手加減してると足元すくわれるぞー!
事情を知らない観客のヤジに、周りで見ていた冒険者たちは不安とともに恐怖すら感じていた。熱狂の強さ。明らかにこの一区画の中に人間が多い。二人を取り囲み、剣とガンナイフの鍔迫り合いを見に来る観客の量としては、明らかに不自然だった。そして、そんな不自然さは、ジーンにもひしひしと伝わっている。
(人が、多いな……)
その一方で、オーデクスの戦闘スタイルは、正統派の両手剣方式で、最も重く作用するように動いて剣を叩きつける戦闘スタイルだ。ジーンのガンナイフは頑丈ではあるものの、その動きによって加重された剣の一撃には対処できず、ジーンはナイフで受け切る度に手に痺れを感じていた。
「はぁっ!! てやっ! うりゃぁっ!!」
お互いの刀身が、鋭く澄み切った音を響かせながらぶつかり合う。ジーンはその感触が、オーデクスの剣の良質さを表していることを理解して「いい剣持ってるじゃねえか」とボヤきながら口元を緩ませた。
周りを取り囲む冒険者や民衆たち、二人を囃し立てたり肩を組み合うその群衆の姿は、次第にヒートアップする。野次馬が多いとしても、明らかに人数が増えている。決闘に付き合いながら周りを見るのはなかなかに難しいが、それでも異常な人数であることはジーンにも体感でわかる。確認しなければ。もしこれが分身の紛れたものであれば…
「どうだ! オレは英雄になる男、オーデクス・ブレイザーだ。オッサンみたいな後のない冒険者とは違うんだよ!」
威勢の良い掛け声とともにオーデクスの攻撃は更に激しくなっていく。もちろんジーンにとっては脅威ではないが、この場に流れる異様な気配の状態を気にせずにはいられない。そう思い、ジーンは仕方なくオーデクスに反撃をする。
ザッ!
「ん?」
「すまねえな少年。ちょっと調べたいことが出来たから、お前さんを負かさなきゃなんねえんだ」
そう言うと、今までゆるく握っていたガンナイフを握り直して、少年の体重の乗った一振りをガンナイフだけで受け流した。
カァン……!
「うわっとっ……!?」
自分の攻撃の流れを逆手に取られたオーデクスだが、逆に剣を刺して地面に着地、土のエナジーで街道の石材に動力を与えて、そのまま近接で斬りかかろうとしたその時。
「おせぇな」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、ガンナイフどころか具足付きの足で、剣の峰を正確に蹴り抜いて、オーデクスの手から剣を奪った。そしてオーデクスが、剣の行く先に視線をやっている間に、ジーンは銃口をオーデクスに突き付けた。
「これで終わりだ。わんぱく少年」
「……くっ」
歯を食いしばって悔しがるオーデクスに、無情な瞳を向けるジーン。勝負の結果は火を見るよりも明らかだった。そして、剣を失ったオーデクスを見捨てて、ジーンは踵を返して群衆に目を向ける。
(やっぱりだ。こいつら……)
ジーンは気付いた。増えている、それも同じ顔の人間が。これは間違いなくあの事件と同じ出来事だ。
「……おい少年! お前さっさと逃げ」
ジーンが再びオーデクスに振り向き、この異様な場所から逃げるように伝えようとした時。
オーデクスの後ろには
剣を振り下ろす
もう一人のオーデクスがいた。
「あぶねえっ!」
ジーンの叫び
振り下ろされる剣
振り向くオーデクス
そして少年の分身が振り下ろした剣は




