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第25話 調査報告

 各所でスカーたちが情報収集を始めてから、一週間が経過した。


 昼の賑わい溢れる石炉亭の片隅の席では、四人の冒険者がそれぞれの持つ情報を出し合い、その事実をすり合わせていた。


「って事は、分身は自分の本体を攻撃して殺す習性があるってのかい?」

「私とエリオが見たのは、そう言う事よ」

「なら、もしも人間の分身が同じような習性をもってるのであれば、結構まずいんじゃないの? ジーンが言うには、最近人が増えてる感じがするんでしょ?」


 シルヴィとエリオが直面した『分身による自分殺し』スカーが見た『キュロを模した分身』そしてジーンが感じた『賑わいと夜空の違和感』ここに集う報告からいくつかの推測を立てる四人だが、その結論は、今が非常に危険な状況であることの説明にしかならなった。


「確か……レギーナが帰ってこられるのは今日の夜だったわよね」

「そうね、ギルド宛てに伝聞鳥の手紙が着いてたわ。あたしに送るように指定があったって」


 スカーがレギーナからの封書を取り出してテーブルに置く。未だ四人というのは、ヴェスパー家に里帰りして、情報を集めていたレギーナの不在が理由だ。同じエリュ・トリにあっても、馬車で移動を要するほどに距離のある場所にあり、先んじて連絡をするでもしない限り、情報を共有は出来ない。


「でも、レギーナもかなり重要な情報は掴んだみたい。これを見て」


 そう言ってスカーは封書を開き、中の手紙を広げる。それは、レギーナがヴェスパー家で書き留めた複数のメモと、仲間たちに向けたメッセージだった。


「二枚はレギーナからの情報、そして一枚はお手紙ね」


 レギーナが残したメモは、全員の想像を超える推測が書かれていた。




 星の国、占星術、プトレマ、アルカナ、スィンツー侵攻戦、タロキアム……




 これまでの推測とは訳の違う、様々な固有語の書かれたメモ。四人はその内容に、最初は理解が追い付かなかった。


「すごい……レギーナは一体、何を調べてたの……?」

「まるで、深淵だな。レギーナが目の当たりにした国というのは、こんなに複雑なものだったのか?」

「こりゃ……レギーナからの情報だって言われなけりゃ、夢物語で済ませちまう内容だな」


 シルヴィ、エリオ、ジーンは、そこに書かれている内容そのものはほとんど理解できなかった。だが、少なくともこれを必死で伝えようとしていた事だけは理解していた。令嬢として普段から丁寧な字に気を配っているレギーナの、精緻さとはかけ離れたまとまりのない文字が、それを語っていたのだ。



「……つまり、スィンツーの更に奥、占星都市タロキアムには、あたしたちがエナジーとして使っている以外の、アルカナという能力が存在する……って、こと?」


 三人がメモの中身を漫然と眺めていると、スカーはそのメモからレギーナが伝えようとしていた事を翻訳する。以外にもスカーがそれを読み解いたことで三人は更に驚き、エリオは思わずスカーに尋ねた


「スカー……この意味、分かるのか?」


「全部は理解できないけれど、レギーナが何を言おうとしてるのかは、少しだけ分かる……かな?」


 首を傾げて、半信半疑で答えるスカー。そんな彼女の反応に、三人は悩まし気に頭を抱えた。


「はぁ……確かにスカーの洞察力とか直観力は凄いけれど、まさかこの場面でもスカーに先を越されるなんて」

「何故だろう、何も勝っていないし負けてもいないのに、どうしようもない敗北感がこの場に漂っている気がする」

「こいつは昔からこうだったな。普段は色々迷惑はかけるくせに、何か事件があった時、誰よりも早く核心に近づくことが出来る……俺は今初めてこいつの事を不公平だって思ったよ」


「ちょっと! なんかすごい辛辣な評価を貰ってる気がするんですけど!」


 全員の落胆とスカーの心外な言い草が、ひそやかだったはずの話し合いを、一瞬だけいつもの雑談に切り替えた。


「とりあえず一通り書かれている事をまとめると……スィンツーの向こう側にあるタロキアムという国にアルカナという、星をメインにした能力がある。スィンツーは古い時代にタロキアムに侵攻するも、そのアルカナの力により敗北して、それからは侵攻をしていない」


「そんで、そのアルカナってのは町とか村を一つ覆う程度の能力があり……」


「現在のエリュ・トリの事件は、この巨大なアルカナの影響かもしれない……という事か?」


 レギーナから受け取ったメモに書かれている情報を四人でつなぎ合わせて、ようやくレギーナの言いたいことの真意を掴むスカーたち。そこまでの情報を得たことで、四人はこれまでの情報と照らし合わせて可能性を模索した。




――

・動物から始まった分身騒動、主な特徴は近くにいる動物と同一の個体である事、本体と一蓮托生で生存している事、そして場合によって本体を殺す可能性がある事が判明している。


・分身体は、内部が星空模様の空洞で、死ぬなどして内部が切り開かれた時点で消えて行き、そこに死骸は残らない。


・分身の現象は人間にも波及しており、動物との細かな差異は不明だが、目撃例はある。またここ最近、夜の人の賑わいが増えた印象がある。


・星という言葉にまつわる手掛かりとして、六国の一つ『タロキアム』があげられている。占星術を主とする国で、特殊能力『アルカナ』を使い、スィンツーの侵攻をも抑え込んだ国である。

――




「かなり情報がまとまってきたわね」


 全ての情報から得た推論にスカーが少しの喜びを見出す。これまで欠片でしかなかった情報がまとまっていき、前提ありきという面も含めて可能性を提示できたというのは大きな進展だ。


「これを全て鵜呑みにするのなら、このエリュ・トリにタロキアム出身のアルカナ使いが入ってきて、何かを企てている事になるな。スィンツーがらみでないのは、幸か不幸か……」

「でも、そのスィンツーを押しのけた国がここに影響を及ぼして来たのなら、私たちに対抗する方法はあるの?」


 シルヴィの疑問に、誰も答えは持ち合わせていなかった。理由はどうあれ、スィンツーが手を出せなかったというのは、これまで紛争の当事者として戦っていた彼女たちにとっては重い課題である。


「まぁ、難しい話はレギーナ帰ってきてからでもいいでしょ?それよりももう一つレギーナからの手紙があるんだけど……」


 スカーは話題を変えるように、レギーナが送ってきた封書の中に入っていた三枚目目の手紙を取り出す。それは、入っていた二枚のメモとは違う、丁寧な筆跡の手紙であった。


――いきなり乱雑なメモをよこした事は申し訳ありません。ですが、この事は一刻も早くお伝えしたいと思い、皆さんの知恵に頼るようにわたくしの考察書を同封いたしました。もしも、わたくしの予想が正しければ、そう長くないうちに、エリュ・トリに大規模な現象が起きるでしょう。わたくしも姉さまから借りた馬車で、なるべく早く戻るつもりですが、万一、事態が先に起きてしまった場合は、皆さんが頼りです。スカーとジーン。お二人にはいつも手を焼かされますが、わたくしはその実力を信頼しています。もちろんエリオとシルヴィも、わたくしにとっては尊敬すべき先輩です。だから、どうか、ご武運を。――

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