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第22話 ”アルカナ”

「……はぁ」


 コツ、コツ、コツ……


 夜。飾られたホールクロック(置き型振り子時計)の音を聞きながら、ヴェスパー邸の自室で本を読み漁っていたレギーナは、探せども探せども、肝心な何かにたどり着かないタロキアムの歴史調査に溺れていた。


「お父様の言う通りですわね。本はいくつもありますが、いずれも非常に抽象的で……分かる事と言えば、大都市の名前程度……」


 旅行記、旅のエッセイ、歴史書、小説、観光日記……十冊以上の本を読み解き、様々なキーワードを紙にメモしつつ、今回の事件と関りがありそうなものを抜き出そうとするが、そのどれも、いくつかの地名が分かる程度で、タロキアムの詳細な文化を手繰り寄せるには遠く及ばなかった。


「よく出てくるのは……アルマ、ミラク、アルフェラという主要都市、後は……歴史上の人間の名前? それとも施設? どっちともつかないような名前だけ……これじゃまるで……」


 まるで、意図的に記述が制限されているかのようだ。


 いくつもの本から得た情報をまとめた時に、レギーナがたどり着いた結論がそれである。


「更におかしいのは、タロキアムでエナジーに触れる記述がないことですわ。歴史書でも星がどうの、占いがどうのと……エナジーが存在しない? もしくは、認知……?」


 独り言のように呟きながら、頭の中を整理するレギーナ。昼夜を問わず本を読み、僅かな情報も欠かさず書き連ねて、気が付けば彼女が実家へ帰省してから4日が経っていた。そしてこの夜も、厳かにレギーナの部屋をノックする音が聞こえてくる。


コン、コン、


「バナジー?」


 レギーナの呼び声に、執事は扉を開く。


「お嬢様。あまり根を詰めすぎてはお体に障りますよ」

「ですが……どうしてもこれを解き明かさないと帰れません。わたくしは信じたいのです、今のわたくしが感じた直感を」


 夜のランプの明かりと時計の音の中で、レギーナが発した言葉に、バナジーもこれ以上野暮なことは言えないと悟った。そして老執事はレギーナの側に座り、レギーナが読み漁っていた本を一つ一つ畳んで整理すると、今度は自分の手でもう一度開いて読み始める。


「バナジー?」

「お嬢様がそれほどまでにエリュ・トリを大事にしているのなら、私も微力ながらお手伝いをさせていただきます」

「……ありがとう。バナジーも根を詰めすぎないようにね」

「ほっほっ、一本取られましたな」


 令嬢と執事、冗談を交わしつつも二人で本に向かい、穏やかな明かりの中で目的とする情報への道を進んでいった。


「お嬢様。この記述は調べられましたか?」


 二人で本を読み返して1時間ほど。もう深夜も近いという頃に、バナジーは一冊のエッセイの記述をレギーナに示した。


「それは……旅行記ね。確かそれも読んだ気がするけれども……アル、カナ?」

「お嬢様のメモの中で、この語句については触れておられなかったようなので、お尋ねをしたのですが……」


 レギーナは、既に軽く目を通していたはずのエッセイの記述を読み返して、そこに書かれている事を頭に入れるように読み返す。




――ミラクへの道すがら、農夫が土を耕す傍らで、風が不自然に舞い上がるのを見た。アルカナの仕業だ、と同伴の商人が笑ったが、私は確信した。あれはエナジーなる力、星の欠片が地に宿った証だ。タロキアムの民は、星から流れ落ちる光を吸い込み、それを風や炎に変える術を知ったのだ。プトレマで教えるのは、きっとその秘法だろう。星の光を掌に集め、アルカナという器に注ぐ――そう考えれば、ミラクの市場で揺れる灯りも、星の欠片が漏れ出したものに思える。――




「……バナジー、これは大当たりかも知れませんわ」


 レギーナは、自分が読み飛ばしていた記述をじっくりと咀嚼して、そこに含まれる意味をメモに書き留めた。


「どうしてエナジーという言葉が使われてこなかったのか、それはこのタロキアム特有の【アルカナ】という存在があったから……この記述から見るに、エナジーの利用法をアルカナと置き換えている。それなら他の記述でも……」


 レギーナは、この記述の中から得た仮説により、これまで見てきた書物の多くの記述をメモに残し、それらを結び合わせる。


「アルマの広場、人の形、プトレマ……学問、アルフェラのプトレマ……アルカナ、月、運命、星……」




「エナジーの……変形……」




 頭の処理では追いつかない思考を言葉で補いながら、レギーナはメモを一気に書き上げる。これまでに出てきた記述を整理して、メモ紙が机を埋め尽くすほどの枚数となった時、それらから一つの結論を導き出した。


「占星都市タロキアムには、エナジーを擬人的な姿で操作する【アルカナ】という文化がある。それはエナジーの幻像であり、このタロキアムでの力の証……」


 自分が書いたいくつものメモから、レギーナは少しずつ結論を生み出す。


「アルカナには様々な種類がある。それらはタロキアム特有の文化に根差した名前で呼ばれ、エナジーの操作によってさまざまな能力を引き起こすことが出来る……もしもこれがエリュ・トリの異常と紐づいていたのなら……」


 そこまで読んで、レギーナはようやくこの調査が一つの線を結んだことを悟った。それと同時に、レギーナの中にいくつかの疑問も浮かび、頭の中が一気に色んな情報と推測で満たされていった。

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