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第20話 新風たちのやり取り

「……あんなんじゃ、弱すぎる」


 スカーたちが調査に乗り出して、当のスカーが処罰牢に閉じ込められている午前中のギルドで、オーデクスは悔しさを噛みしめていた。ここまでの期間で、オーデクスは自分が受けられる鹿の狩猟依頼を受け続けて、自分の行ける狩猟区で鹿狩りを行っていた。


 だが、オーデクスは感じていた。あの時の狩猟で戦った火原鹿よりも、いま戦っている鹿があまりにも弱い事を。せっかく隠密で近づいても、獲物は全く逃げるそぶりも、警戒するそぶりも見せない。オーデクスが踏みだして、剣を構えてもなお、狩猟区の鹿たちはなすがままに討伐される。


 更に、組んでいた他の三等級の冒険者たちに「これ、解体できるのか?」と聞いて回ったが、彼と同じ三等級の冒険者に、丁寧な解体が出来る物などいるはずもなく、中にはオーデクスが首から刈り取った鹿の死体を見て吐き気を催す者もいる始末だった。そんな経験は「自分の周りには、解体も隠密も出来ない情けない奴しかいない」という偏見を持つには十分で、次第にオーデクスは今までとは違う意味で周りを見下し始めていた。


「誰も解体が出来ない。誰も隠密が出来ない。あの時の危険な鹿も、そして戦闘をサポートする、姉ちゃんみたいな人もいない……なんだよ。冒険者って、弱いやつばっかじゃん」


 自分の理想としていた姿と、現実の動きが乖離した少年は、なぜ自分が剣を持って鹿を狩っているのかと自問自答した。


 紛争を生き抜いた英雄になる。そんな目標を掲げてここに入ったのに、たかが鹿に負けて、ろくに知識ももらえず、まともな仲間もいない。あるのは、鹿の首を何度も切り落とした、一振りの長剣だけ。


「……そういえば、あの姉ちゃんの事、全然知らなかったな」


 オーデクスは、ふとあの日出会ったスカーの事を思い出した。解体の事は知らなかったけれど、人から聞いた話を教えてくれたり、非常食を持っていたりと、色々役に立った仲間。自分を子ども扱いする所はあったが、少なくともこれまでに組んだ人間よりは、何かを知っていたような気がした。だが少年は思い出す。あの時に彼女の名前を一度も聞いていない事を。


 そう思い、オーデクスは少し気持ちを切り替えて、冒険者ギルドにやってきて受付の人間に尋ねた。


「……なあ、受付の兄ちゃん!」

「ん? なんでしょうか?」


 オーデクスは、暇そうな受付の男性に、あの日の冒険者の事を訪ねる事にした。オーデクスが声をかけたのは、何時の頃かにジーンの依頼を受けて、しぶしぶ書類を作成していたあの受付の男、アーベイである。


「受付の兄ちゃん、オレ一緒に依頼を受ける冒険者を探してんだ。前に一緒に鹿を狩ったんだけどな、なんか赤い髪で、二刀流の女の冒険者で……あと……」


 オーデクスがそこまで言って、アーベイは少し考える。だがすぐにその顔は面倒くさそうに表情を変えて、身の無い返事をオーデクスに返した。


「あー、さすがに三等級の冒険者全員は覚えてないから、特徴だけ言われても俺にはわからないかな、ごめんねー」


 投げやりな返事を聞いて、オーデクスは少しムッとして、もっと絞り込めそうな特徴がないかと頭をひねる。


「いや、多分三等級じゃないかもしれないんだ。赤髪で、二本のナイフを持ってて、なんかどんくさそうだけど色々自分が聞いた話を教えてくれた姉ちゃんなんだ」

「と言われても……多分、とか、教えてくれた、とか、自分の感想を持ってこられても俺らには探しようがないんだよ」


 アーベイの言う事も一理ある。現状で冒険者の総数は千人弱、その数を全員覚えるのは新人のアーベイはおろか、受付をする人間たちにとってもかなり難しい。だがオーデクスは、そう言う現実的な問題よりも、今ここで対応しているアーベイの態度の方が引っかかていた。


「何とかして探してほしいんだ、二等級とか一等級なら人も少ないだろ?それなら…」

「いや、二等級ならまだしも、一等級がどうして君と同行するんだい?一等級は冒険の仕事で生計を立てるような人物だよ?見習いを相手にしてる暇はないって」


 どこか嘲笑にもとれるアーベイの言い草に、ここまで少しでも情報が手に入ればと思っていたオーデクスは我慢がならなかった。そして、オーデクスは受付のテーブルをゴン!と叩いて怒りを露わにする。


「オレがどんな冒険者を探しててもいいだろ? 一等級を探しちゃダメだなんて誰が決めたんだよ。受付なら冒険者の話を聞くのが仕事なんじゃないのかよ!」

「いやでも……」


 オーデクスがまくしたててもなお、アーベイは何か言いたげに口を開く。そして、一触即発の雰囲気が立ち込める中で、一人の男の声がその緊張を引き裂いた。


「アーベイ君」


 渋い男性の声、そして、アーベイの態度に対する厳しい口調の声。アーベイは背中を震わせて、恐る恐る後ろを見る。


「プ、プラーシュ……マネージャー……」

「私は言ったはずです。冒険者はみな平等、どんな冒険者の依頼に対してもまずは受ける事が前提だと。言われたことも、貴方は守れないのですか?」


 辛辣な口調のプラーシュの言葉、さすがにこれ以上言い訳が聞かないと思ったのか、アーベイはその場から動けず、何の反論も出来なかった。


「オーデクス君。若者が失礼いたしました。私は受付スタッフのリーダーに当たるプラーシュです。赤髪で二刀流の女性の冒険者をお探しという事ですね?」

「そ、そうだ! 一度その姉ちゃんと鹿を狩ったんだけど、あの姉ちゃんともう一度一緒に狩りをしたいんだ!」


 アーベイを押しのけて、オーデクスの相談内容を聞き取るプラーシュ。頭の中で、ここに登録されている冒険者の中から、その特徴に見合う者を候補として思い浮かべる。そして、一つの結論を出すと共に、少し残念そうにオーデクスに答える。


「承知しました。ですが君が確信できるように、今思い浮べている冒険者たちに確認を取らせてください。もしそれでいいのなら、私が責任をもって君の探している冒険者を紹介しましょう。それでいかがですか?」

「……あぁ、わかった。じゃあちょっと待ってるよ」

「ありがとうございます」

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