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第5話 マリヤン

「そういうアンタは、そのか……」

「あっ、いきなりすみません。クロス・リッパーとは悪名だと聞いていたのに失礼を。私はマリヤン・ハースニール。スミスクラウン商会の展示会に興味があって、このエリュ・トリまで旅をしてきたんです」


 マリヤンと名乗る女は、胸元を手で覆うようにして恭しく一礼する。五人とも彼女の丁寧なしぐさと物言いに少し心を落ち着けた。


 しかし、そんな落ち着いた様子とは裏腹に、レギーナはマリヤンに申し訳なさそうに説明する。


「マリヤン…さん? あいにくですがわたくしたちは単なる冒険者。このスカーがクロス・リッパーなのは間違いないとして、そのスミスクラウンの展示会についての話はわたくしとわたくしの家のお話です。なので残念ですがあなたに有益なお話はありませんわよ」

「そうだねぇ、あたしも興味あるわけじゃないし。レギーナが行きたいっていう話しかしてないから、クロス・リッパーの異名を知ってくれてるのは嬉しいけどあまり力にはなれないかなぁ」


 スカーからもすげなくあしらわれるマリヤンだったが、彼女の表情は一向に変わらず、また話を続ける。


「そうですか……実は私も服飾や装備に興味があったわけではなく、以前の展示会の様子を聞いた商人から“装備を試着した女性たちが案内をする”という話を聞きつけて……」


 マリヤンがそんな事をつぶやくと、今まで目もくれていなかったスカーの身体がビクッと反応した。


「私としてはただ飾られている服よりも、それを身に着けている姿を一目見てみたくてお声掛けをしたのですが……」


 マリヤンのそんな意見に、最初に反応を示したのは意外にもレギーナだった。


「うっ……そ、それは昔の事ですし、今はどうなってるか……」

「レギーナ、あなたこういう時のウソが下手ね」

「黙りなさいシルヴィ! そんな話をスカーに……あ」


 シルヴィの言葉に語気を強めたレギーナ。そして気が付いた時にはもう遅く、肉を食べていたスカーの目は爛々と輝いていた。そして、スカーはレギーナに質問……いや、尋問に近い口調で静かに質問する。


「ねえレギーナ。その話って、本当?」

「えっと、なんのお話……でしょうか?」

「装備を試着して案内をする人間、それも女性がいるっていう話」

「それはその……年によって異なるというか、いたりいなかったりするというか……」


 レギーナがしどろもどろに返答していると、スカーはナイフとフォークを置いて、わきわきと手を伸ばしてレギーナに詰め寄った。


「できればさぁ……レギーナの口から正直な説明が欲しいんだよねぇ……それとも何かな、身ぐるみ剥いで身体に聞いた方が早いのかな?」

「っ!! わ、わかりましたわよ! 正直にお話ししますからせめて公衆の面前で人の衣服を剥ぐのはやめてください!」


 あわや生まれたままのご令嬢の誕生かという間際に、レギーナが白状したことでスカーの手は再びナイフとフォークを持つ事となった。


 その様子を見ていたマリヤンは、驚きとともに背中に冷や汗が伝うのを感じていた。




「展示会にコンパニオンという名目で装備を試着した男女が案内をするというのは正解ですわ。去年でも例年通りそういう人物が商会に所属している人物から選出されているとは聞きました」


 スミスクラウン商会の展示会とは、商品の品評の場であり、その装備の性能の実験場でもある。そのため、ただ見るだけの展示とは違い、商会から選ばれた装備者が武器・防具・装飾の実践や性能実演をするのが通例となっている。


「スミスクラウンには装備・服飾・細工といった多岐にわたる職人が在籍しています。特に服飾や細工については女性のモデルを擁立することも珍しいことではありませんの」

「それはそれは、あたしも人が来てる服にしか興味なかったから全然知りえない情報だったわね」

「けどスカー?万が一……いやチリ一つでもその展示会に入れたとして、そこで迷惑を起こせば敵になるのはスミスクラウン、しかも今回は長であるスラック肝入りのイベントですのよ、もしかしたらギルドでも……育ての親であるカゴでも擁護できないかもしれないという事は頭に叩き込んでおきなさい」

「はいはーい、わかってるわよ。それで、レギーナが招待状を持っているのは分かったけど、例えば私たちやこのマリヤンさんがそこに入る余地ってある?」


 スカーからの質問に、レギーナはいい顔はしなかった。


「通常の展示会でしたら、限定的な一般展示を行う事はあります。目的のコンパニオンも配備されています。しかし今回の展示会は……招待状の中身は直接見せる事は出来ませんが、全ての日程が招待客に限定されているという事だけはお伝え出来ます」

「そっかぁ……取り付く島もない訳だ。そういう事だからマリヤンさん、クロス・リッパーのあたしを尋ねてきてくれたところ悪いんだけど、力になれそうにもないわね」

「それはタイミングが悪かったみたいですね。ご迷惑をおかけしました」


 結局風向きも良くならないままに、マリヤンとの会話は打ち切りとなる。マリヤンも残念そうな表情で彼女たちを見て、やるせない気持ちで立ち尽くしていた。


「かわいそうになぁ、俺たちだって行きたいのはやまやまなんだぜ? だけどさ、これでもしがない冒険者、レギーナはともかく俺達には冒険者ギルドって言うコネ以外はない訳さ。しかしこうして出会ったのも何かの縁。もしこのトリ・セントレで停泊していくのであれば、この冒険者ジーン……エリュ・トリの旅行生活をす・み・ず・みまでサポートいたしますよ?」

「あ……え? あ、心遣いは感謝するわ。でも私は……」


 いかにもいい人そうにマリヤンに言い寄るジーン、マリヤンがうろたえている傍らで、レギーナとシルヴィはジーンに対して冷たい視線を送っていた。


「ジーン……またあなた女を引っかけようとして」

「こんなのが『先陣の英雄』という事実にわたくしは頭が痛いですわ……」

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