第8話 一等級冒険者の狩猟
「簡単すぎるけど……ここはしょうがないな。もしかしたら大活躍してすぐに等級を上げられるかもしれないし……姉ちゃん! オレが一緒について行ってやるよ! これから英雄になる男の活躍見せてやる!」
「おーけー。それじゃあ受付さん、あたしたち2人で鹿狩りの受注をしたいんだけどいいかしら?」
スカーの言葉には言外の意味があった。先ほどの分身調査とセットになった鹿狩りの依頼を、スカーの名義で受けさせろ……そう言う相談だ。スカーが受けようとしていたのは鹿の間引きと同一個体の調査。特に調査は未開拓情報への関わりなので、本来は一等級だけが許されるものである。そのため安全性の面から同伴だろうと許可されないのが基本となっている。
受付の彼女は、基本的に例外は認めるなと指導を受けてはいるが、何せここにいるのはスカーである。そんな彼女が自分の責任で受注すると言うのだから、他の冒険者とは信頼の積み立てが違う。
「……分かりました。それではオーデクスくんと二人で組んで、火原鹿を一頭狩猟してきてください。ちなみに狩猟評……」
「あーとりあえず鹿を一頭狩ってくればいいんでしょ? 2人いるから大丈夫よ、でしょ?」
「おう! まかせとけ!」
「わ、分かりました。では受注しますので、二人ともお気をつけて」
こうして、スカーは五日ぶりの依頼を、少年は二人組を組んで“簡単な鹿狩り”を受けることになった。
「じゃ早速行こうぜ!」
依頼が受注できた所で少年はすぐにギルドを飛び出して目的地に向かおうとする。そしてスカーは少年についていく間際、受付を見る。
「とりあえず、ついでに調査もしておくから安心して。あと、団長とかプラーシュには上手いこと言っといて。その分のお礼はするから」
「あっ、はい……」
そんな会話を交わしてから少年についていくスカー。少年の方は「置いてくぞ!」とスカーに言って、意気揚々とギルドを駆け出していった。
「それで、これから狩猟区に行くんだろ? 早く行こうぜ!」
ギルドから出て、少年はすぐにこのエリュ・トリの狩猟区と言われる場所を目指そうとする。いくら数の増えた獣とは言え、のべつまく無しに狩っていては生態系に影響が出るということで、冒険者の狩猟依頼の多くは、その狩猟区に限られている。
「急ぐわね。何か準備はしなくてもいいの?」
「準備なんていらないだろ? オレにはこの剣がある。鹿を倒すなんてそれで十分だ」
「ふーん……」
スカーはそんな自信満々の少年を見て、微笑ましいと言った顔を浮かべていた。その裏で、自分の装備にあるいくつかの道具を確認する。スカーが確認したのは狩った鹿の処置に関する薬品や使い捨ての道具たちだった。
一等級の狩猟には、狩猟評価という制度が付いてくる。それはギルドを代表する冒険者が見境なく狩猟を行うことを制限するもので。この狩猟評価が低い場合、降格を受ける可能性もあるものだ。今回受けている狩猟の依頼もそれが関わってきており、一等級専用の依頼の為、スカーは鹿を狩る場合の用意をしておく必要があるのだ。
「そういやあ姉ちゃんの武器ってナイフか? 二刀流のナイフってなんかカッコいいな」
「ありがとう。あたしも少年みたいにいつか人と戦うかもしれないって思って、色々考えてこの武器にしたのよ」
「ってことは、姉ちゃんもあの紛争から冒険者になったのか?」
「そう、ね」
少年は、目の前にいる人物が志願者ではなく当事者である事を知らずにいる。今のスカーにとってはこの状況は便利な状況なので、少年が勘違いしたままであるのならそのままでいいかと思い、スカーは成り行きに任せた。
「それじゃあ早速鹿狩りに行きましょうか。こっちの林に……」
「ん? 今日は山の方じゃないのか? オレたちはいつも山の方に行ってたんだけど」
それは少年が三等級であることを示す質問だった。狩猟区も等級によってその利用範囲が決まっている。等級が低い時はその活動範囲も狭いので、少年の見識も、間違いではない。
「今回はこっちらしいわよ。さっき受付の人からそう聞いたわ」
「そうなのか、こっち側って初めて行くからなんか楽しみだな!」
狩猟区の話は全冒険者に一通り説明されている。少年がそれを意識していないというのは、スカーにとっては幸運だが、冒険者の心得としては喜べないものだ。
スカーたちが普段から歩く林の狩猟区、見通しがよく、遠くにいる獲物などを観測することが出来るので、数が必要な時や素早く狩猟討伐をするには有効な場所である。スカーと少年もその見通しを利用して鹿がいないかを捜索するために足を進めていく。
少年も冒険者として一端の体力は有しているようで、少し速さを落として歩いているスカー相手にしっかりとついてきている。軽い皮鎧に、いわゆる片手剣に当たる長剣。少年の背丈からしてみれば結構な重量のものを背中に抱えているだけに、スカーも少年の基本的な能力については問題ないと判断した。それから二人は鹿がいないかどうかを見回りつつ進んでいき、狩猟区の端が見えるほどの場所までやってきた。
「結構歩いたな」
「そうね……あっ」
二人が狩猟区の端を目に留めるかどうかという時、二人はようやく一頭の火原鹿を見つける事が出来た。
「鹿だっ!」
二人が見据えた先、20メートル向こうに少し赤みを帯びた毛皮と、立派な角を持つ鹿が佇んでいるのが見つかった。周囲を見回して警戒をしつつ移動をするその姿。スカーはその動きが気を緩めていない警戒状態であるとすぐにわかったが、そんなことなどお構いなしに、少年は一閃、鹿との距離を詰めた。
「行くぜぇっ!!」
ザッと駆け出して、足音を響かせて突撃する少年、鹿はすぐに気が付いて突進してくる少年から逃げ出す。鹿は林の合間を複雑に抜けて、少年の動きをかく乱しつつ逃げて回る。
「くっそぉ! こいつ以上に足が速いぞ! めちゃくちゃ強い鹿だ!」
広い林を左右にかく乱しながら動く火原鹿。少年は林の中を行き来する一頭の鹿に完全に翻弄され、有り余っていたと思っていた体力もすっかり消耗して、いつの間にか剣を収めて走るまでになっていた。




