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第7話 少年とスカー

 クロス・リッパーの五日間の拘留は、周りが思うよりも早く過ぎていき、スカーは処罰牢から押し出されるように出ていき、ギルドのロビーへと足を進めた。


「はぁー、長かったわ。さすがにそのまま白骨死体になるかもって思っちゃった」


 誰が聞くでもない冗談を言いつつロビーで何か依頼を探そうとしたときスカーはいつもとは違うギルドの雰囲気を感じた。随分あわただしい。人の往来も少なくない場所だが、それ以上にこのロビー内のざわつきがスカーの耳には目立って聞こえていた。そしてスカーはすぐに受付に向かい、そのざわつきに関する情報を集め始める。


「やあ、依頼ついでに聞きたいことがあるんだけど」

「あっ、スカーさん。そういえば今日は釈放でしたね。それで何を聞きたいのですか?」

「なんか、ギルド内が随分騒がしいんだけど、何か大きな事件でもあったの?」


 スカーの質問に、受付は改めてロビー内の冒険者たちの様子を観察する。そして、口々に話し合っている内容に耳をそばだてて、その内容に共通する部分を判別できた受付は、スカーに事の次第を説明し始めた。


「ああ、どうやらスカーさんがいなかったこの五日間で増えてるあの事案についてですね。実はスカーさんが投獄された日から今日までに、エリュ・トリ周囲で謎の現象が頻発しているんです」

「謎の現象?」


 スカーは拘留中、外の様子を気に掛けたりはしておらず、この受付との会話が情報に触れる最初の段階となっていた。そして受付の意味深な話しぶりに、スカーは耳を広げた。


「ジーンさんが最初に気が付いたのですが、最近『動物の分身』が多発しているのです。一番最初は火原鹿の間引きを行っていたジーンさんが気付いたものだと聞いているのですが、その時に調査依頼を出してから五日……かなり多くの冒険者が、そんな分身個体との遭遇を調査報告として提出したのです」

「分身? それは光の動きとか脚力で解決とかそう言ったものじゃないの?」

「はい。ジーンさんが違和感を話してきた時には、いわゆる気まぐれな想像という事で片付いたのですが、今では冒険者の間に広まる噂レベルまで広がってまして」

「ふーん……」


 スカーは、ジーンの言う事ならと、その噂について疑うことなく、その状況を自分でも確認したいと考えた。五日間も依頼をこなさずにいたおかげで、懐も寂しい。ここで依頼料を稼いでおくのも一つの手だと思い、受け付けスタッフに依頼を受ける旨を伝えようとした。


「ねぇ、その分身の鹿の件で、狩猟とセットになってるものはある?」

「あ、はい。それなら溢れるほどにあります」

「じゃあ、五日ぶりの依頼は、その鹿狩りに……」




「受付の姉ちゃん!」




 スカーが依頼を受注しようと受付に掛け合っていた時、急にスカーを押しのけるように足元から入ってきて、一人の少年が依頼書を持って来た。


「なぁ! このスィンツーの国境警備の依頼が受けたいんだ! これなら俺もアイツらと戦えるし、アイツらをやっつける事が出来るだろ!?」

「あ、オーデクスくん……あの……」


 受付スタッフの彼女はふたつの意味で返答に困っていた。単純に依頼書の作成を受注したスカーに割り込んだこと。そして少年が持ってきた依頼書が彼の等級では挑むことの出来ない一等級の依頼だったことである。


「ごめんなさいね、その依頼は一等級の冒険者でないと受けられないんですよ」

「一等級? オレは!?」

「オーデクスくんは入りたてだから三等級で、そこから依頼をこなして等級を挙げていかなきゃいけないの」

「そんな面倒な事やらなきゃ行けないのか? オレ、これやりたいから、俺が成功出来たら一等級に上がったりしないのか?」

「それは順番が逆かなぁ。自分の等級の依頼が出来て初めて昇格できるから……」



 スカーのことなど構いもせずに受付と会話を交わして、そんな話を聞いて不満そうな表情を表す少年。そんな少年にスカーは不快感は持っていなかった。むしろ逆で、スカーはそんな少年の姿をニヤニヤと見下ろしており、受付はそんなスカーの不敵な顔をチラチラと見て、いつ謝ろうかと機会を伺っていた。そして、少年も受付の顔が自分の近くにいる女に移り変わっていることに気づき、その表情を見て更に不満を募らせる。


「なんだよ姉ちゃん。気味の悪い笑顔だな、オレに何か用か?」

「いいえ? ただ微笑ましいなって見てただけよ」


 少年はスカーの顔の変化を見て、何か企んでいるんじゃないかと訝しがる。そして少年がスカーに突っかかった様子を見て、受付の彼女は気が気でなかった。クロス・リッパーにここまでズケズケと物申す人間を見るのはそれだけ珍しい事だ。だが


チラッ


 スカーはそんな不安そうな彼女に視線をくれて、ほんの少しだけ首を横に振った。それは暗に「今はあたしの素性は隠しといて」と言っており、受付の彼女もそれを読み取って何も言わずに成り行きを見守った。


「ところで姉ちゃんも冒険者か? もし良かったらオレが冒険の手伝いをしてやってもいいぞ!」

「へぇ、それならちょうどよかった。実は今、受付の人と鹿狩りの依頼をやろうと思ってて、少し相談してた所なのよ。それであたしも一人だとめんど……鹿を狩りきれるか心配だから、相棒が欲しかったのよね」


 スカーは、自分の素性を隠したまま先ほどの依頼を受注する事を考えていた。受付もそんなスカーの行動で先ほどの目配せの意味を理解して、その話に乗るようにしてスカーと会話を始めた。


「え、えぇそうなんです! オーデクスくんがその依頼書を出そうとしてた時、彼女もちょうど依頼中でして」

「そうなのか。けど鹿狩りって簡単な依頼だろ? 姉ちゃんも駆け出しか?」

「まぁ、この依頼を受けておけば石炉亭でいい料理が食べられるわけだし、せっかくだから受けようと思ってね」


 スカーは自分の等級について語らず、それらしい言葉で少年をかわす。少年も、そこにいる呆けたような顔をした彼女が一等級である事とは考えなかったので、等級についてそれ以上言及はせず、依頼を受けるかどうかに考えをシフトした。

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