第34話 決着
「うるせえって言ったんだぁっ!! 何が師匠だよっ!! 勝手に俺の事見込んでっ!! てめえの勝手な理由で捨てやがって!! それで自分は偉そうに高給取りかよっ! 馬鹿にすんな!! 模造の才能の何がわりいんだよ! 完璧な模造が出来て何がわりいんだよ!! 模造は修行の内? 模造ばっかりやってきた俺に、なんも知らねえ奴が何言ってんだよぉっ!」
「オレはここから逃げるぞ!! あと20センチなんだ!! ハハ……捕まえて見ろよクロス・リッパーぁ!! どうせ仕組みが分かったところで、てめぇはあの鎧をよぉっ!! 俺が身につけてるこの装備品を剥ぐこたあ出来ねえんだも
スパァーーーーーーン…………!!
「……は?」
「ごめんなさいね。できればもうちょっとあんたの言葉を聞いてたかったんだけど、多分これ以上何も言い訳は出ないって思ったから、全部剥がさしてもらうわね」
ガリンの激しい慟哭。そしてクロス・リッパーへの挑戦。そんな魂の叫びの最中、スカーの瞬撃は、六人全員の装備を剥ぎ取り、そして切り刻んだ。細かく切れた彼らの衣類は、何も見る事が出来なかったガリンたちの半裸姿に、まるで紙吹雪の様に降り注ぎ、そこまでしてなお、六人には何が起こったのかが理解できていなかった。
「どういうことだよ……」
「なんでだよ……」
「破れなかったんじゃないのかぁっ!!!??? あいつはそうっ……!!」
ガリンの必死の言い訳にも動じず、スカーは城門の出口側で首だけで振り返る。冷酷な瞳、服を引き裂かれた男たちをモノか何かとでも思っているような冷淡な視線。そんな軽蔑のまなざしを向けて。
「悪いわね。あたし、その実験品を剥げないって一回も言ってないの。つまり、あんたが想定してた『対クロス・リッパー』って言うのはね、夢のまた夢だったわけ。残念だったわね」
「これで終わりよ。シャドウクロークの長、ガリン・ヴェストリー」
これだけの会話を経て初めて、男たちは足から力が抜け、その場に崩れ落ちた。そして間もなくして、男たちはレギーナやエリオに捕らえられ、スミスクラウン邸に連行されていった。
だが、その場所にはまだ余韻が残っていた。それはスラックとピアーの驚愕だ。
「す、スカーさん。さっきなんて言ってましたか?」
「ん? ああ、あの実験品の事? まぁ見てのとおりよね?」
そう、アトラクションでスカーの攻撃を受けきっていた装備、その装備の一つが、スカーの瞬撃でその辺に刻まれて落ちている。それは、スミスクラウンにとって別の意味で重大な事態だった。
ただでさえ仕組みを看破されてうろたえていたピアーとスラックに対して、スカーはダメ押しとでも言わんばかりに彼女が見たものを説明した。
「エナジーを吸着する縫製は、簡単に言えばエナジーを保持できる肌着が縫い付けられている事。この縫製自体は、外から付け足しをしない画期的な仕組みだから、本人の身体を守ることに関してはコストパフォーマンスに優れた技術よ。そして保持したエナジーを本人の身体と定着させて、脱衣を防ぐ。戦場で他の装備よりも脱げにくくなる効果は優秀よね」
「だから、ガリン・ヴェストリーは見逃した。エナジーを吸着する縫製という事は、エナジーの密度が異常に膨れ上がるという事実を。本物の装備を盗んだのであれば、それは多くのエナジーをそこに吸着させており、うちのシルヴィみたいにエナジーに敏感な人なら、その気配にすぐに気が付く。どれだけ着飾っててもね」
そこまで言うと、スカーはコツコツとスミスクラウン親子に近づく。その時スラックもピアーも悟った。奴の目がクロス・リッパーになっている事に。
「そうでしょ? ピアー……さん?」
「おいクロス・リッパーさんよ! 後生だからこの場では……いや、ピアーだけはやめてやってくれ」
「お、お父様……!」
「吸着補正はシンプルに言えば『ぴっちりしたエナジーの服を着てる』事と同じなのよ、だからぁ……」
ヒュンッ!!
「きゃぁぁぁっ!!!」
スカーが深く構えて、そよ風のようにピアーの後ろを通り過ぎる。その瞬間、スカーの手には丁寧に畳まれたピアーのワンピースがあり、ピアーの方は穏やかなワンピースの清楚さに合わないグレーのスポーツタイプのブラとショーツを露わにする事となった。
「や、やりやがったなクロス・リッパー!」
「スカーさんっっ!!」
公衆の面前に娘の肌を見せる羽目となったスラックは怒っていいのか隠していいのかわからず慌てふためき、晒されたピアーもどう対処していいかしゃがみ込んで迷っていた。そしてスカーは悪びれもせず二人に告げる。
「こうやって、同じくエナジー吸着縫製をしている服を着ていた所で、あたしが剥くことが出来なくなるって言うのは、浅い考えなのよ。へへっ」
スミスクラウン商会、公務エリア。
そこにはスミスクラウンの様々な取引、公共サービスを取り扱う場所が設置されている。無論、警察組織もその一部であり、スカーたち冒険者とスミスクラウン、そして牢の向こうで座っているガリンとシャドウクロークの面々がそこに集合していた。
「……なんだよ。師匠」
ガリンは完全に戦意消失していた。牢の向こうにいるスラックに対して、なんと呼べばいいか迷った結果、旧来の関係で呼ぶほどに、である。
「今のお前は、俺の弟子なんかじゃないだろう?」
「ああそうだな。今はアダマントの……いや、それも違う。今の俺は、シャドウクロークの団長だ。こいつらを生かすために悪事を働いていたはぐれ者だよ」
自虐的な笑いをかまして、全てを告げていくガリン。証言を得られている状況ではあるが、男の姿は何処か哀れに見えてしまう。
全ての時系列がつながった。
ガリンはスミスクラウンを追い出され、その恨みからシャドウクロークを創立、そして盗んだ装備の贋作を露天商に流して金を集めている中で、粗製乱造を繰り返していたアダマントに、自分の技術を売り込んで入り込み、スミスクラウンへの復讐の機をうかがった。
そして展示会。一日目の偵察で盗む装備の目星をつけて、シャドウクロークを集めて深夜に襲撃。ガリン自身も襲撃に加わり、ガリンは盗もうとしていた実験品を自分の手で解析。そして展示会二日目の開催までに、手持ちの材料から最も高級なものを使い模造品を作り出す。
そして、二日目の展示に際して実験品を一旦引き上げる時に、スタッフに紛れていたもう一人のシャドウクローク団員が本物と偽物をすり替えた。アダマントには、事前にどの装備をすり替えたかを教えており、スミスクラウンがそれを選ぶよう仕向ける為の「不自由な二択」を提案、アダマントは見事にそれをやり遂げ、事件が始まった。
「あとはお前たちが知っている通りだ。アダマントはずる賢い上に自分以外を下に見る傾向があった。成り上がりの典型例だったよ。だから全てを完了させた後は最初からあいつを見捨てるつもりだった。捕まろうが死のうがどうでもよかったよ」
「最っ低ですわね、使うものは使い、必要がなくなれば平然と裏切る……」
「ヴェスパー家のお嬢さんだったか? あんたにはわからない事だと思うぜ。何せあんたもアダマント側だ、下の労働者を使い潰し……」
ガァン!!!
ガリンの言葉を聞き終わるより先に、レギーナの手が牢を叩き、金属がぶつかったかのような激しい音がする。そして目の感情も見えないレギーナが深く重い言葉でつぶやく。
「……ヴェスパー家が、その下で働く方たちをどう扱っているか、外野どもが勝手なことを言わないでくださいまし」
それだけを言い残して、レギーナはツカツカと仲間たちの裏に戻っていった。そして、スラックが前に出てガリンと会話をする。




