第32話 決着の剣戟
「シルヴィ! 大丈夫か?」
「ええ、それよりもごめんなさい、合流を許してしまったわ」
一対二の戦局で、片方が二人になれば、もう片方は四人の連携で動く。それはつまり、処理すべき対象が増えることを意味する。
「はぁっ!」
「エリオっ!」
エリオが視線を外した先から切りかかる剣士とその直刀が飛んできて、シルヴィが声をかけた背中からまた剣が襲いかかる。二対の目で警戒していても、四人が連係してしまえば焼け石に水だ。
次の瞬間、白装束二人が同時にエリオに斬りかかり、それをエリオが目で捕らえる。
「させないっ!!」
その時、エリオがエナジーを操るより先にシルヴィの土の壁が生まれる。だがそれは悪手だった。エリオはすぐに後ろを向いて、シルヴィの背中で彼女に襲いかかる剣士を視界に捉えた。だが遅い、エリオの手はまだエナジーを使う準備をしていない。
ザンッ!!
「あっ、ぐっっ………!」
「シルヴィ!! くっ!」
大きな隙を逃さなかった剣士二人の斬撃は、強い力でシルヴィのレザープレートを斬り裂いた。かなり深く切り付けられ、打撃と斬撃の両方の痛みを背中に食らったシルヴィは、息ができないほどの衝撃で声を失う。そして手は遅れたが、エリオは即時氷の針を生成して、男たちの剣を弾き飛ばした。
「凍れっ!!」
そしてすぐにエリオは氷の外殻を作り、さらに周囲に氷結の罠を展開した。白装束の四人はそれを剣の斬りつけで破壊しようとするが、削った場所から凍る事でどうにか耐えることができている。
「シルヴィ! 背中は……!?」
「くっ、いっ……大、丈夫……少し斬られた、だけ……だから」
エリオの結界の中で膝をついて座り込むシルヴィ、エリオは外を警戒しながらシルヴィの背中を確認するが、鎧も服も綺麗に斬られており、僅かに触れたエリオの手には、ぬたりとした血が付いていた。
「くそっ、こんな事になるとは……」
氷のドームの中で、何とか凌ごうとしたエリオ。しかし、無慈悲にもドームの外の剣士達の色が炎のように赤々と燃え盛り始める。
(火のエナジー……これでは氷の生成が間に合わないっ……!)
そして剣士たちはエリオの氷結の罠を炎の足で踏み越えて、そのまま接近した状態で熱を加えつつ剣を叩きつける。熱により氷は溶解し、再度氷を張ろうとしても炎が邪魔で層を維持することが出来ない。ドームの壁はどんどん薄くなり、やがてヒビが入る。
剣士は見逃さなかった。僅かな「パキッ」という音を聞いて、そこに剣をねじ込んでドームごとガラスのように破壊してしまう。
「エリオっ!! シルヴィっ!!」
自身の戦況も芳しくない中、レギーナが一瞬二人を見る。だがその油断もまたレジーナを追い詰めることとなる。
バチン!!
「きゃあっ!!」
僅かなタイミングで男の一人がレジーナに詰め寄り、そのレイピアを強引に弾き飛ばす。レギーナは手のしびれを我慢して水を生成するが、すぐにもう一人の男が剣を水平に薙ぎ払う。咄嗟に後ろに蹴り出したレギーナだったが、軽装鎧の最も薄い部分を的確に狩られて、へその少し上辺りから、血がにじんできた。
そのまま手をついて着地をするが、立ち上がろうとした時にレギーナの首元に男の刃が突き立てられた。
(このままじゃ……)
「がっはっは! なんだこの程度とは!エリュ・トリの冒険者も見かけ倒しじゃったわけか。おいお前ら、そいつらの処分は任せた。わしはすぐに逃げるからの」
走り回った服のホコリを払ってようやく立ち上がったアダマントは、剣士たちに指令を出して、どうにか生き延びたその身でここから退散しようとする。ジーンは乱戦、シルヴィ、エリオ、レギーナは完全に命を握られた状態、それをほくそ笑んで立ち去ろうとするアダマント。そして、剣士八人が、トドメを刺すために力を入れる。
(いやぁっ……!!)
「あらあら、ちょっと早すぎたかしら?」
距離の遠い声。アダマントにも聞こえていたその声に、全員が一瞬立ち止まった。そしてすぐに、エリオとシルヴィを囲んでいた四人の剣士の前を一筋の光が瞬く。
ガキイィン!!!
とてつもない金属音が響き渡り、四人いた剣士の一人はその剣がへし折られているのに気が付いた。同時に自分の足元の低い位置に、赤髪の女が跳躍の構えでスタンバイしている。
慌てて飛び退くが、遅い。彼女は迅雷の如く四人の剣士の周囲を飛び交い、持っていた剣を根こそぎ弾き飛ばして辺りの樹木に突き刺した。得物の感覚がないことに気が付いた剣士たちはすぐに飛び退き、アダマントの前まで戦線を下げる。そして冒険者たちは、遅れてきた仲間に悪態をつきながら出迎える。
「遅いぞ、クロス・リッパー」
「あぁまったくだ。今回ばかりは光の速さで来てほしいと思ったよ」
「スカー! この不利を覆す役、あなたに任せますわよ!」
「ははっ! はいよー。それじゃあ……」
幾度の戦いを吸い込んだジャケット
戦禍を生き抜いた二振りのダガー
そして短く風になびく赤髪。
『クロス・リッパー』スカー・トレット・フレスヴェルグが、いつもの調子を崩すことなく、八人の剣士達の前に立ちはだかった。
「いつもみたいに、ひと剥ぎしましょうか?」
「ちっ! たかが冒険者一人……英雄だろうが何だろうが、こいつら八人でかかればさすがに押し切れる! やれお前たち!」
アダマントが自分の周りに戻ってきた八人に声をかけ、再び冒険者を襲撃するよう命令する。だが、
「……」
その剣士たちは一人としてその場から動かない。剣を持たない者たちは自然と武道の構えを取り、剣を持つものも、その切っ先をスカーに向けるもののそこから動こうとはしない。
「お、おいお前ら、何をボケっと突っ立っておるんじゃ! さっさとあいつらを始末し……!」
アダマントが痺れを切らしてヤジを飛ばそうとした時、白装束の剣士たちはフッと飛び上がって、城壁に足をかけて登っていった。
「あっ、おいっ! お前らっ! 何を勝手に逃げてるんじゃ! わしを連れてゆけバカモノどもがっ!」
「あら? ずいぶんと判断が早いわね」
瞬く間に城壁を登り上げて、壁の向こうへ姿を消した八人の剣士。そして後には冒険者とアダマントだけが残された。
「くそっ! 役立たずどもがっ! わしを誰じゃと思ってるんじゃ! このアダマント・オーリファイクが! ここまで順調じゃったわしの計画がぁっっ!!」
完全に自分の戦局が不利になったアダマントは、頭をかきむしりながらその場で地団駄を踏んで、やり場のない怒りをあちこちにまき散らしていた。もはやそれは、おもちゃを取り上げられた子供のように惨めで、冒険者たちをここまで出し抜いた人間とは思えない結末となった。




